「師長さん、すいませんでしたっ。」
私は原井さんの甥の方からお叱りをうけた。
『よいしょって何だ。患者をモノみたいに扱って。』
そんなつもりはない。
無意識に出た言葉だ。
だけど家族からしたら不愉快だったのだろう。
私は甥の方の注意に思わず泣いてしまってた。
情けない。
泣きたくなんてなかったのに…
力が必要なときは1、2、3と掛け声を使う事に決まってた。
それは、今回みたいに不愉快に思われる事があるからだった…
「吉岡さん、受け持ち違う人に代える?」
「…」
師長さんの言葉が重たかった。
私には原井さんは無理なのかな…
患者様と医療従事者。
人と人。
どうしても合わない事だってある。
それが患者様と医療従事者ではなく、家族と医療従事者というトラブルも珍しくない。
信頼関係の積み重ねが大切な医療の現場で、不信感があると治療や検査もスムーズに行いにくくなるんだ。
そんな時は担当を変えることも当然考える。
だけど…
私は、まだ原井さんに何もしてあげれてない…
「すいません。もう少しだけ頑張ってみます。お願いします。」
私は逃げたくない!
「無神経な言葉を言って本当に申し訳ありませんでした。」
私は原井さんと原井さんの甥に頭を下げた。
だけど甥は表情も変えず私を無視する。
…うぅ、腹が立つよぉ。
「あ゛ぁあああぁ!」
また水木さんが叫ぶ。
「ちっ。」
男性は椅子から立ち上がり、廊下歩いてた看護師を呼び止める。
「なあ、朝から晩までうるさいんだよ。こっちも病気で入院してるのに休めないだろ。あれ、何とかしろよなっ!」
怒り口調で水木さんを指差した。
大きい声のため、その言葉が耳に入り水木さんの奥さんが平謝りする。
「本当にごめんなさい…悪気はないんですが。」
「ふん。」
男性は、言うだけ言った後は再び椅子に座り携帯電話を触りはじめた。
「すいません、主治医に相談しますからお待ちください。」
看護師さんは頭を下げナースステーションに戻った。
…ひどい。
だけど、間違ったことを言っているわけではない。
水木さんの叫び声に皆が辛い顔をしてたのも事実だった。