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〃脳外科⑥〃


最初から、とんでもないスタートをきってしまった脳外科実習…



だけど、翌日から甥の姿はなく、私は内心ホッとしてた。



そのかわりに原井さんは、いつもお部屋に一人ぼっちだった。



テレビもただ点けてるだけで、窓から外を眺めていた。

私にはその横顔が悲しそうに見えた。





「原井さん。」


できるだけ明るく声をかける。


私が声をかけると少しだけ表情が和らぐ。

顔には麻痺があるから表情はわかりにくいんだけど…


でも、私にはそう見えたんだ。








病棟は静かだった。


水木さんは精神状態が落ち着くように、内服薬に鎮静剤が追加されたんだ。


それからはウトウトしていたり、起きていてもボーッとする時間が増えた。


薬の力って怖い…


水木さんの暗い表情を見てそう感じた。



「ずっと興奮したままだと、しんどいからって言われたのよ。」


水木さんの奥さんは爪切りをしてあげながら呟いた。

点滴は中止されて眠ったまま、鼻に入れられた管からご飯を流していた。




「人様に迷惑かけるくらいなら仕方ないよね…あんた…」



首を少し傾け、優しい目で水木さんを見つめていた。


水木さんにというよりは自分に言い聞かせてるみたいだ…




原井さんもお昼ご飯の時間だ。


食事がはこばれてきた。



食べやすいように食事はペースト状、水分やお汁はトロミがつけられたもの。


原型が判らず、ご飯はまさに糊といった感じ。



お世辞にも美味しそうとは言えない見た目…



今は麻痺があるから、誤嚥による肺炎の危険が高くて仕方ないんだ。


下手すると何も食べなくても、唾液でさえ肺に入ってしまう事もある。




食事による誤嚥予防のため、まずは姿勢を整えること。



「原井さん、ベッド起こしますね。」


ベッドを上げてるとき、少し膝が曲がるよう足元も上げる。

身体が下へズレていくのを予防するため。


ただじっと座るだけでも患者様には辛いことなんだ。


おまけに原井さんには麻痺があるから、座ってても身体を自分で支えにくい。

だんだん体が傾いていっちゃう。


床擦れも、座り続けることの邪魔になってた。


「枕を置きますね。」



身体のずれによる摩擦は床ずれを悪くしちゃうから、クッションを使って支える。



「…」


原井さんは何かを表現することなく、ただされるがままだった。

 




頭を少し高くし、やや前傾姿勢に。


これは気道へご飯が入りにくいようにする為。


エプロンを掛けて原井さんが、ご飯を見渡す。


「はぁ…」


ため息…



「原井さん、どうぞ。」


右に麻痺があるため左手でスプーンを持つ。


食器は右側が重たくなってて、お碗を持たなくても食べれるようになっていた。

震えながら口に運ぶ。


一度口に入ったあと食べ物がこぼれた。


「…」


原井さんの表情がグッと固くなる。


右手でしている事。

実際に使えなくなり左手でする事が結構不便になるんだ。


利き腕じゃないと、歯磨きひとつなかなか満足にできない。




原井さんは顔にも麻痺があり、口が開きにくいし触れても判りにくいといった理由があった。

 

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