《プシュー…》
い・た・い…
私は口を大げさに動かしてみせた。
「何?にがい?」
陽子は首を傾げながら尋ね返す。
私は首を左右に振る。
違う。
お尻が痛いんだ。
「何か食べたいの?」
陽子は困った顔で聞き直した。
あぁーもう!!
イライラする!
いつもいつも、わかってもらえない…
言いたい事が何も伝わらない。
楽しい事も
悲しい事も
苦しい事も
最後には結局あきらめるしかない。
気持ちが伝えれない事って苦しい。
言葉が無いって、とても大変な事だ。
どうしようもない歯痒さに耐えれず結局、背中を向けるしかない。
「おはようございます。…どうかしたんですか?」
私の姿を見て心配する優花ちゃん。
何でもないよ。
仕方ない事だから。
「ごめんなさい、主人が何を言いたいのかわかってあげれなくて…」
陽子がうつむく。
自分を責めているみたいだった。
…私だけじゃなく聞く方も辛いんだよな。
もしかしたら私以上に歯痒いのかもしれない。
ゴメンなさい…
「そうだったんですか。」
優花ちゃんも気にしないでよ。
私が我が儘なんだ。
私が我慢すればいいだけの事なんだから。
「ちょっとだけ待ってくださいね。」
そう言うと優花ちゃんは、パタパタと病室屋から出ていった。
あれ?
どうしたんだろ。
…
しばらくすると再びドアをノックする音が聞こえた。
「あの…小林さん、これ使ってみませんか?」
優花ちゃん、何それ?
手にはボードを持っていた。
何か書いてある。
えっ…と
あいうえお、かきく…五十音?
それとは別に簡単な単語もあった。
[はい][いいえ][トイレ][痛い]など単語が書いている。
何これ?
「小林さん、最近少し手が動くようになっていますよね。」
一応、リハビリ頑張ってるからね。
「お話したい事を、文字を指していただけたら伝わりますよ。」
…なるほど
書くのはまだ難しいかもしれないけど、これなら。
「すこし手間はかかりますからイライラするかも…」
申し訳なさそうに頭を下げる優花ちゃん。
「私こんな事ぐらいしかしてあげれないから…」
いや全然!
私はゆっくりゆっくりと文字を指指した。
それは、ずっとずっと伝えたかった言葉。
みんなに一番最初に伝えたかった言葉。
あ…
り…
が…
[あ、り、が、と、う]
いつも迷惑かけてゴメンなさい。
いつも有難う。
いっぱいいっぱい感謝してます。
初めて気持ちを伝える事ができた。