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3月 4日日曜日(晴れ)

《プシュー…》

い・た・い…

 

 

私は口を大げさに動かしてみせた。

 

 

「何?にがい?」

陽子は首を傾げながら尋ね返す。

 

 

は首を左右に振る。

違う。
お尻が痛いんだ。

 

 

「何か食べたいの?」

陽子は困った顔で聞き直した。

あぁーもう!!
イライラする!

 

 

いつもいつも、わかってもらえない…
言いたい事が何も伝わらない。

楽しい事も
悲しい事も
苦しい事も

最後には結局あきらめるしかない。

気持ちが伝えれない事って苦しい。

 

 

言葉が無いって、とても大変な事だ。

どうしようもない歯痒さに耐えれず結局、背中を向けるしかない。

 

 

「おはようございます。…どうかしたんですか?」

私の姿を見て心配する優花ちゃん。

何でもないよ。
仕方ない事だから。

 

 

「ごめんなさい、主人が何を言いたいのかわかってあげれなくて…」

陽子がうつむく。
自分を責めているみたいだった。

…私だけじゃなく聞く方も辛いんだよな。
もしかしたら私以上に歯痒いのかもしれない。

 

 

ゴメンなさい…

「そうだったんですか。」

 

優花ちゃんも気にしないでよ。

私が我が儘なんだ。
私が我慢すればいいだけの事なんだから。

 

 

「ちょっとだけ待ってくださいね。」

そう言うと優花ちゃんは、パタパタと病室屋から出ていった。

 

 

あれ?
どうしたんだろ。

 

 

 

しばらくすると再びドアをノックする音が聞こえた。

 

「あの…小林さん、これ使ってみませんか?」

優花ちゃん、何それ?

 

 

手にはボードを持っていた。

何か書いてある。

 

 

えっ…と
あいうえお、かきく…五十音?

 

 

それとは別に簡単な単語もあった。
[はい][いいえ][トイレ][痛い]など単語が書いている。

何これ?

 

 

「小林さん、最近少し手が動くようになっていますよね。」

一応、リハビリ頑張ってるからね。

 

 

「お話したい事を、文字を指していただけたら伝わりますよ。」

…なるほど
書くのはまだ難しいかもしれないけど、これなら。

 

 

「すこし手間はかかりますからイライラするかも…」

申し訳なさそうに頭を下げる優花ちゃん。

 

 

「私こんな事ぐらいしかしてあげれないから…」

 

 

いや全然!

 

 

私はゆっくりゆっくりと文字を指指した。

 

 

それは、ずっとずっと伝えたかった言葉。

 

 

みんなに一番最初に伝えたかった言葉。

 

あ…

 

 

り…

 

 

が…

 

 

 

[あ、り、が、と、う]

 

 

 

いつも迷惑かけてゴメンなさい。
いつも有難う。
いっぱいいっぱい感謝してます。

 

 

 

初めて気持ちを伝える事ができた。

 

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