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3月 3日土曜日(曇り)

「パパ、あーん…」

ん?何?

あーん…

 

 

 

私が口を開けると何かが入ってきた。

 

《ガリガリ…》

 

ゲホッ
ゲホッゲホッ

 

 

何だコレ?

 

 

「綾、何してるの?パパはまだ食べれないのよ!」
「…ゴメンナサイ。」

陽子に怒られてニコニコしていた綾がしゅんと落ち込む。

 

 

咳き込んだ。
やっぱり食べれないんだ。

大丈夫な気がしたんだけどな…
今の私はどれほど情けないんだろうか。

 

 

 

歩けない
座れない
しゃべれない
食べれない
トイレもできない
息もできない

 

 

何も一人じゃできない。
誰かにお世話してもらわないと生きていけない身体。

存在自体が迷惑をかけているだけ…

生きてる事が苦しくてたまらない。
悲しくて耐えれない。

何でこんなことになったんだろう。

 

《コン、コン》

「失礼します。ご飯もってきました。」

 

 

優花ちゃん。
そうか。もう、ご飯の時間なんだね。

食べない事に少し慣れてきたから、お腹空いた感覚が薄れてきた。

 

 

優花ちゃんの手には薬を溶かしている注射器と空の注射器。
あとはドロドロの液体の栄養食をいれた容器を持っていた。

今の私は1日三回、鼻の管から栄養と薬を流されていた。

これで元気になるのかな。
いつかは口から食べれるようになるのかな。

考えるだけで憂鬱になる。

 

 

 

「優花お姉ちゃん。はい、どうぞ♪」

「…あら、これは雛あられ?そっか、今日はお雛様だもんね。」

雛あられ?

 

 

そうか。さっき私の口に入った固いものは、あられだったんだ。

灯りをつけましょ…か

ついこの間節分だと思っていたのに、ただ寝てるだけでもどんどん時間が過ぎていくなぁ。

 

 

「失礼しますね。」

そう言うと、優花ちゃんがベットを起こし座った姿勢になる。

 

 

注射器に空気を入れて、鼻の管の先につなげる。
聴診器をそっと私のお腹にあてた。

顔が近くにくる。ふわっといい香りがする。

 

 

「OKですね。」

注射器で音を確認してニコッと笑った。

ご飯をつなげられた。

 

 

今から1~2時間ぐらいかけて胃の中に流される。

その間、同じ姿勢で過ごす事になる。

ただ座るだけ。
だけど今はそれさえも苦痛なんだ。

 

 

座るという事がこんなに辛いと思わなかったんだ。

また元気になるのなら、なんだって我慢できるさ…

 

 

だけど、元気なれる保証なんて何処にもない。

今は何とか生きているだけなんだから。

一日、一日をただ精一杯、生きてるだけなんだ。

 

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