「吉岡さん、おはよう…」
水木さんの奥さんだ。
何か元気無い。
「おはようございます。」
私は頭を下げた。
「水木さん、どうかされたんですか?」
私の言葉に奥さんが封筒を見せてくれた。
「主治医から精神科病院の紹介状を渡されたの。」
ここは急性期の病院。
一通りの治療が終われば退院へと話しは進む。
だけど水木さんは、自宅に帰れる病状ではなく。
まだ若いので老健などの施設も無理。
「仕方ないのよね…冷たいようだけど、私も仕事しないと子供が…」
床頭台に飾られた家族写真を見つめる奥さん。
「ついこの間までは、普通の生活だったのにね…」
奥さんの顔は悲しそうだったけど…それ以上に疲れ窶れてた。
実習中、子供さんの姿はまったく見てない。
奥さんは、たった一人悩み苦しんだのかな…
「ねえ、あなた。とりあえず今日、紹介された病院に行ってくるわね。」
淋しそうに微笑んだ。
私が水木さん夫婦を見たのは、この日が最後だった。
それから数日開き、実習に来ると原井さんの横にもう水木さんの姿はなかった。
水木さんはあの後、すぐに転院になって…そこには、もう新しい患者様が入院してた。
何だかショックだった。
今は冬。
脳外科は忙しい。
夏場や冬場は血管内脱水を起こしやすく、脳梗塞の患者様が増えるんだ。
また、気温変化により血圧が上昇して脳出血も増える。
つまり脳卒中の患者様が沢山病院へ受診にみえる。
でもベッドの数は限りあるから…
入院があれば、退院しないといけない人がいるのは当然だった。