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〃脳外科⑨〃




新しく来た方はパチンコ屋さんで倒れて、病院に運ばれてきたらしい。


診断は脳出血。



幸いにも症状は軽いもんだった。



いつも面会や家族の方が入れ替わりにぎやかな光景が目に入る。




対照的に、原井さんはいつも一人。


面会者もいなくて、相変わらず外ばかり見てた。

洗濯物も山積みになっちゃってる。



伸びた髭も剃らしてくれようとはせず、ご飯も食べない…



そのため、点滴を持続で投与されるようになってしまってた。



「すいません、ありがとうございます。」



私は看護師さんにお願いして、原井さんの前の入院のカルテを見せてもらった。


何か私にできることがないのかな。

何かヒントはないかな。


カチ、カチ…


パソコンの画面に表示された原井さんの情報。

前回の発症時は、原井さんも軽い痺れくらいのものだった。



「え…」



5年前の原井さんの看護記録。



そこに記されてたのは明るく、お喋りなお爺さん。


同室の患者様とも、楽しそうにお話をしてたみたい。


点滴治療から内服治療へと変わると退院へ。


独り暮らしだったため、介護サービスや施設なども薦められたけど

『人の世話を受けてまで生きたくはない。』

と拒否した。



この時はまだ、自分の事は自分で出来る程度の病状だった。

…でも、今回はサービスを受けないわけにはいかないよね。

 



病気って、それまでの人の生活をあっさり変えてしまう…


残酷だよね…





私ができる事なんて些細なことしかない。

一生、何かをしてあげれるわけでもない。




でも…

それでも何か力になりたいよ…

 



カルテを見ていて気づいた事がある。

原井さん、お風呂が好きだったみたい。


なぜなら前の入院の時は毎日入ってたんだ。



今は介助での入浴だから、週2回ぐらいしか入れないけど…

そういえば、お風呂だけは拒否しないんだよね。



「よし。」


私は大きな洗面器にお湯を溜めて、原井さんのところへ行った。



「原井さん、足浴しませんか?」




私は原井さんを車椅子へ介助して、洗面器中にゆっくりと足をつけた。



一瞬、原井さんの足がピクッととなる。



「熱いですか?」


原井さんはゆっくりと首を左右に振った。



足浴は、お風呂に入ったような気分に少しだけなれる。



「大丈夫ですか?」



足のマッサージをしながら、原井さんのお顔を見てみた。



原井さんは気持ちよさそうに目をつぶっていた。

 

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