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「婦人科医は女性がいい」はわがまま?男性医師への本音と、産婦人科の現実

「婦人科医は女性がいい」 そう感じたことがある人は、決して少なくないかもしれません。

X(旧Twitter)では、男性産婦人科医の“需要”をめぐる投稿をきっかけに、婦人科医の性別、会陰縫合の痛み、内診への不安、医師の態度をめぐって多くの声が集まりました。

ただ、投稿を追っていくと、話は単純な「男性医師か、女性医師か」では終わりません。女性医師を望む患者の切実な理由がある一方で、産婦人科の現場では男性医師を含めた人手がなければ、当直や手術、救急対応が回らないという現実もあります。

問われているのは、医師の性別そのものなのでしょうか。それとも、患者の痛みや羞恥、不安を軽く扱ってきた医療現場のあり方なのでしょうか。まずは、SNSで何が起きたのか、そしてその背景にある事実を丁寧に紐解いていきます。

患者の安心 医療の現実 歩み寄りと対話
目次

Xで噴き出した「婦人科医は女性がいい」問題

婦人科や産婦人科を受診するとき、「できれば女性の先生に診てもらいたい」と思った経験はないでしょうか。実は最近、この「産婦人科医の性別」をめぐる議論がSNSで大きな注目を集め、多くの女性たちが過去の体験談を語り始める事態になりました。

きっかけは男性産婦人科医の“需要”をめぐる投稿

話題の発端となったのは、ある産婦人科専門医によるXでの投稿でした。「学生から『どこに男性産婦人科医の需要があるのか』と問われた際、基本的に女性は女医を希望するため、男性医師は長時間の手術や当直、医局の穴埋めをするためにいると答えている」という趣旨の内容です。

この投稿は、「男性医師は裏方として必要である」という医療現場のリアルな労働環境を伝えるものでしたが、表現がストレートだったこともあり、またたく間に拡散されました。「穴埋めのためにいる」という言葉に複雑な思いを抱いた人もいれば、それをきっかけに自分自身の妊娠・出産、婦人科受診での出来事を思い出した人も多かったようです。

「男性医師は嫌」「女性医師でも痛かった」患者の声は一枚岩ではない

この投稿を機に、SNS上では産婦人科に関するさまざまな体験談が溢れました。 「男性医師に内診をされて不快だった」「出産後の処置が信じられないほど痛かったのに、男性医師に冷たくされた」といった男性医師への不信感を訴える声が目立ちました。

しかし、寄せられた声は決して「女性医師ならすべて良くて、男性医師はすべてダメ」という単純なものではありませんでした。 「女性医師の内診のほうが乱暴で痛かった」「私が通っていた病院の男性医師は、とても優しくて丁寧だった」という真逆の体験談も次々と投稿されたのです。患者の感じ方や経験は、まさに人それぞれであり、一枚岩ではないことが浮き彫りになりました。

単なる男女論ではなく、“痛みを軽く見られた記憶”が火種になった

さまざまな意見が飛び交う中で、人々の怒りや悲しみが最も集中していたポイントがあります。それは「医師の性別」そのものというよりも、「自分の痛みや不安を、医療者から軽くあしらわれた」という過去の傷でした。

たとえば、「痛いと訴えているのに『これくらいで痛がらないの!』と怒られた」といったエピソードには、多くの共感と怒りの声が集まりました。痛みに対する配慮のなさ、患者の尊厳を傷つけるようなコミュニケーション不足が、今回の議論をここまで白熱させた最大の火種だったと言えます。

「女医さんがいい」はわがままなのか

「どうしても女性の先生がいい」と受付で希望することは、医療機関側からすれば調整の手間が増えるため、患者自身が「わがままを言っているのでは…」と引け目を感じてしまうこともあります。しかし、それは決して単なるわがままではありません。

内診、出産、会陰縫合――婦人科は身体的にも心理的にもハードルが高い

婦人科の診療は、内科や耳鼻科などの他科とは大きく性質が異なります。性器を直接診察される「内診」をはじめ、性感染症の検査、そして出産に伴う会陰切開やその縫合など、極めてプライベートな部分を他人に委ねなければなりません。

看護の専門資料などでも、内診は患者にとって「羞恥心・不安・緊張が非常に強い診察」であると位置づけられています。足を開いた状態でカーテン越しに何をされているか分からない恐怖や、器具が入る物理的な違和感。こうした身体的・心理的なハードルの高さを考えれば、同性である女性医師を求めるのは、人間としてごく自然な自己防衛の感情です。

性被害や過去のつらい診療体験がある人にとって、医師の性別は重要な条件になる

さらに深刻な背景を持つ患者さんもいます。過去に性被害に遭った経験(PTSDなど)がある方にとって、男性医師と密室で診察を受けること自体が、トラウマをフラッシュバックさせる引き金になり得ます。

また、以前の婦人科受診で、痛い思いをしたり心ない言葉をかけられたりして、病院そのものに強い恐怖心を抱いている人もいます。こうした方々にとって「女性医師を指名できるか」は、わがままどころか、医療にアクセスするための「絶対に必要な条件」なのです。

患者が求めているのは「女性だから安心」だけではない

同性であるという事実は、入口のハードルを大きく下げてくれます。しかし、診察室に入った後、患者が本当に求めているのは「性別」だけではありません。

恥ずかしさへの配慮があるか、痛みを伴う処置の前にきちんと説明をしてくれるか、不安な気持ちに寄り添ってくれるか。結局のところ、患者が「女医さんがいい」と言うとき、その言葉の裏には「私の身体と心を、優しく大切に扱ってほしい」という切実な願いが込められています。

それでも男性産婦人科医が必要とされる現場の事情

項目患者側の視点・事情医療現場の視点・事情
医師の性別羞恥心や過去のトラウマから、同性である女性医師の方が圧倒的に安心できる。女性医師の比率が増える一方、夜間当直や長時間の緊急手術を支える人員(男性医師含む)が不可欠。
処置の痛み痛いときは手を止めてほしい。「これくらい痛くない」と自分の感覚を否定されないか怖い。安全・迅速な処置が最優先される場面もある。ただし、患者への事前の説明や疼痛管理の配慮は必須課題。
医師の指名予約時や問診票で、できれば女性医師を希望したい。都市部以外では分娩施設や人員が減少しており、そもそも担当医を選べる余裕がない地域も多い。
産後の縫合出産後の会陰縫合がトラウマレベルで痛かった。無痛分娩など痛みをなくす選択肢がほしい。現在は局所麻酔の使用が標準的になりつつある。無痛分娩も普及傾向にあるが、施設ごとの体制に差がある。

ここまで患者側の切実な思いを見てきましたが、視点を「医療を提供する側」に向けると、また違った現実が見えてきます。もし仮に「産婦人科医を女性だけにする」ということが起きたら、現場はどうなってしまうのでしょうか。

産婦人科は女性医師が増えている一方、当直・手術・救急を支える人手が足りない

近年のデータを見ると、産婦人科は若手層を中心に女性医師の割合が急増しています。日本産科婦人科学会系の資料によれば、2024年度の産婦人科専攻医(専門医を目指す若手医師)の登録者は、なんと69.1%が女性です。

しかし、妊娠・出産は24時間365日待ったなしです。夜間の当直、緊急の帝王切開、長時間の複雑な手術など、産婦人科は極めてハードな労働環境にあります。女性医師が増える一方で、医師自身も妊娠・出産・育児などのライフイベントを迎えるため、夜勤や長時間労働を担える「常勤の働き手」がどうしても不足しがちになります。 そのため、性別に関わらず、現場の最前線で激務を支えてくれる医師の存在が不可欠なのです。

「希望する医師を選べる病院」ばかりではない地域医療の現実

都市部の大きなクリニックであれば、「女性医師のみ」「担当医を指名可能」といった選択肢があるかもしれません。しかし、地方に目を向けると状況は深刻です。

厚生労働省の統計によると、産婦人科医の数は地域によって大きな差があります。そもそも「お産ができる病院」自体が年々減少しており、一般病院・診療所ともに分娩取扱施設は減り続けています。 「女性医師がいい」と望んでも、通える範囲にある病院には男性医師しかいない、あるいは医師を指名する余裕など全くない、という地域も少なくありません。

男性医師を排除すれば、困るのは患者側になる可能性もある

「産婦人科医は女性限定にすべきだ」という極端な意見もSNSでは見られましたが、現状の医療体制でそれを実行すれば、真っ先に不利益を被るのは患者自身です。

お産ができる病院がさらに減り、救急搬送の受け入れ先が見つからなくなり、手術の待ち時間が何ヶ月も先になってしまう。男性産婦人科医が担っている「長時間の手術や当直、救急体制の維持」という役割は、日本の周産期医療(妊娠・出産に関わる医療)を崩壊させないための重要な柱になっています。

本当に問題なのは「男性か女性か」だけなのか

患者側の「安心したい」という気持ちと、医療側の「体制を維持しなければならない」という事情。これらをすり合わせていくと、解決すべき本当の課題が見えてきます。

女性医師でも雑な内診はある。男性医師でも丁寧な診療はある

SNSの体験談が証明しているように、医師の性別と「診療の質」や「優しさ」は必ずしもイコールではありません。 同じ女性であっても、毎日何十人も診察する中で作業がルーティン化してしまい、声かけもなく乱暴に内診をしてしまう医師はいます。逆に、自分が男性であることを自覚し、患者に不安を与えないよう、誰よりも丁寧に説明し、優しく声をかけながら診察を行う男性医師もたくさんいます。

患者を傷つけるのは、性別よりも「痛みに鈍感な態度」

婦人科受診において患者が最も傷つき、トラウマになるのは「自分の感じている痛みを否定されること」です。 「痛いです」と勇気を出して伝えたのに、手を止めてもらえない。それどころか「大げさだ」「みんな我慢している」とため息をつかれる。こうした「痛みに鈍感で、患者を対等な人間として扱わない態度」こそが、性別以前に改善されるべき本質的な問題です。

「これくらい痛くない」は医療者が言ってはいけない言葉

痛みの感じ方は、人によって全く異なります。体質やその日の体調、不安や緊張の強さによって、同じ処置でも激痛に感じることがあります。 だからこそ、医療者が「これくらい痛くないはずだ」と自分の基準で患者の痛みをジャッジすることは、あってはなりません。患者が「痛い」と言えば、それはその患者にとって紛れもない真実の痛みです。それにどう寄り添い、どう痛みをコントロールしていくかが、現代の医療に求められている姿勢です。

会陰縫合の痛みがここまで怒りを呼んだ理由

SNS上で特に多くの女性から激しい怒りや共感の声が上がったのが、出産後の「会陰縫合」に関する体験談でした。なぜこの処置が、長年経っても忘れられないほど深い傷として記憶されているのでしょうか。

出産は産んだら終わりではない。産後処置の痛みは記憶に残る

「出産という大仕事を終えて、ようやくホッとした矢先に、再び激痛を味わった」という経験は、多くの母親にとってトラウマになり得ます。 本来であれば、赤ちゃんとの対面という幸せな瞬間の直後に、ズタズタに裂けた身体を縫い合わせるという過酷な処置が待っています。この時に「痛い」と訴えても無視されたり、叱責されたりした経験は、「自分の痛みが軽視された」「尊厳を傷つけられた」という強い不信感として心に刻まれてしまいます。産後の心身ともに疲弊しきった状態だからこそ、医療者の何気ない一言や処置の雑さが、より深く突き刺さるのです。

無痛分娩でも、麻酔や処置の説明がなければ不安は消えない

近年、日本でも「無痛分娩」が普及しつつあります。痛みを緩和する選択肢が増えたことは大きな進歩ですが、万能ではありません。 無痛分娩であっても、産後の縫合時に麻酔が十分に効いていないケースや、麻酔の効き具合を確認せずに処置が進められることがあります。技術的な問題だけでなく、「今から何をします」「麻酔をしますが、ここからは少し違和感があるかもしれません」といった丁寧な説明があるかどうかで、患者の感じ方は大きく変わります。無痛分娩を選んだからといって、すべてが自動的に痛くなくなるわけではなく、結局は「丁寧なコミュニケーション」の有無が安心感を左右します。

昔の体験談を“今の標準医療”として広げすぎる危うさもある

SNSでは「昔、ノー麻酔で縫われた」という非常に辛い体験談が共有され、それが現在の産婦人科医療に対する不信感へと繋がっています。 もちろん、過去の医療現場の対応に問題があったことは否定できません。しかし、現在の医療現場では、会陰裂傷の縫合には局所麻酔を併用するのが標準的です。技術や疼痛管理の方法も時代とともに進化しています。過去のトラウマを現代の基準として語りすぎてしまうと、これから出産を控えている妊婦さんに不必要な過度な不安を与えてしまう可能性もあります。一方で、「今は麻酔が標準である」という知識を医療側からもっと積極的に患者へ伝えることも、信頼回復には不可欠です。

患者が安心できる婦人科に必要なもの

「男性医師か女性医師か」という二元論で分断するのではなく、どうすればすべての患者が安心して診察を受けられる環境を作れるのでしょうか。そこには、仕組みと意識の両面からの改善が必要です。

診察前に「女性医師希望」を言いやすい仕組み

まず、病院側が「医師の性別を希望することは、わがままではない」と明示することが大切です。予約システム上で性別の希望を選択できるようにしたり、問診票に「診察や内診について、何か配慮してほしいことや希望はありますか?」といった項目を設けることで、患者は自分の不安を伝えやすくなります。 「女性医師を希望すると診察が遅くなるかもしれない」といった現実的な制約がある場合でも、その理由を丁寧に説明し、納得感のある運用をすることが、医療機関への信頼に繋がります。

内診・縫合・検査の前に、何をするのかきちんと説明すること

「今から何をするのか」「どれくらい時間がかかるのか」「どんな痛みや違和感が伴う可能性があるのか」。このプロセスを省略してはいけません。 内診台に上がったとき、カーテン越しでも良いので「今から診察を始めますね。少し広げます」「少し触れます」と声をかけるだけで、患者の緊張は大幅に和らぎます。未知の痛みに対する恐怖は、情報があるだけで半分に減らすことができると言っても過言ではありません。

痛みを訴えたときに止まる、聞く、対応する医療

何より大切なのは、患者が「痛い」と言った瞬間に、医療者が「手技を止める」という判断ができるかどうかです。 「痛い」という声は、患者からの大切なサインです。そこで無理に処置を続行すれば、それは医療行為ではなく「侵害」になってしまいます。一度手を止め、状況を確認し、必要であれば麻酔を追加したり、休憩を挟んだりする。そうした「患者を主体とした診療」を標準化することこそが、性別論争を乗り越える鍵となります。

まとめ:「婦人科医は女性がいい」の奥にある本当の訴え

今回の議論を振り返ると、患者たちが本当に求めているのは「女性の医師」というラベルだけではないことがわかります。

「男性医師が嫌」ではなく「怖い・痛い・軽く扱われたくない」

多くの声の根底にあったのは、特定の性別への拒否感以上に、「自分を人間として丁寧に扱ってほしい」「痛みという恐怖から守ってほしい」という願いです。その願いが満たされないとき、患者は「女性ならわかってくれるかもしれない」「男性だからわかってくれないんだ」という言葉を通じて、救いを求めているのです。

患者の希望を尊重しながら、産婦人科医療をどう守るか

一方で、産婦人科医療の現場が、男性・女性問わず医師たちの献身的な努力によって支えられているのも事実です。患者のニーズに応えるべく女性医師を増やす努力と、過酷な現場を支えるための労働環境の改善、この両輪を回していかなければなりません。

必要なのは男女対立ではなく、信頼できる診療体制

医師の性別をめぐる議論を、「どっちが正しいか」の対立で終わらせてはいけません。医師と患者が、互いの事情を理解し合い、より良い医療を目指すための対話が必要です。 誰もが安心して命を育み、自分の身体をケアできる社会へ。その第一歩は、どんな小さな訴えにも耳を傾けるという、医療現場における当たり前の尊重から始まります。

参考元

【公的統計・学会資料】

【診療体制・疼痛管理に関する資料】

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