「胸部レントゲンです。」
放射線技師さんがドクターに渡す。
ドクターが電気のスイッチを入れ、レントゲンを貼り付けた。
「…。」
…ひどい。
レントゲンには両肺が真っ白に写っていた。
「頭部と胸腹部CT撮って病棟上がろう。」
私はPHSで病棟に内線をかけた。
「もうすぐ上がります。エアマットと吸引、人工呼吸器、ポンプ準備お願いします。」
「いくぞっ!」
ドクターがアンビューバックを押しながら、ストレッチャーを動かす。
10゚21’
「よし、いくぞ。1、2の3っ!」
病棟に上がると病室の準備ができていた。
身体の下に敷いたシーツを掴み、みんなで患者様をベットへ移す。
「おい、はやくモニター点けて。」
ドクターが呼吸器を設定する。
そして、アンビューを外すとチューブの先を呼吸器につなげた。
「CVCを入れるから…セット持ってきて。」
血圧が70代。
点滴の速度を上げた。
「準備できました。」
ドクターはガウンを着て、清潔な手袋をはめる。
「消毒とって。」
シートをして、消毒後に局所麻酔を注射。
ソケイ部の太い血管に針を刺しルートにつなげ、皮膚に糸で縫い付け固定する。
10゚35’
「ごめんなさい、手を固定しますね。」
今、太い血管に点滴が入ってる。
口にも、陰部にも管があり身体中に沢山の管がつながっている状態。
患者様が無意識にでも管を抜いてしまうと大変な事になる。
抑制と言って、手をあまり動かせないよう固定させてもらった。
小林…裕さん。
この男性は小林さんっていうんだ。
「あの…すいません…」
「はい?」
女の人が来て部屋の入り口で立ちすくんでいた。
「ここは本当に小林裕の病室ですか?」
戸惑いながら尋ねてきた。
状況がわからないといった様子。
「どちらさまですか?」
「あ…小林の妻ですが…」
目が男性の方へ向いたまま答えた。
「一体何が…」
顔が真っ青だった。
足が震えている。
「詳しくは主治医から説明させて頂きます。少しお待ちください。」
私は深く頭を下げた。
目を閉じたままの男性。
眉間にシワを寄せ苦しそうにしていた。
汗でびっしょりになっている。
解熱剤が十分に効いてないんだね。
しんどいよね…
ベッドネームのところの担当看護師の欄に私の名前が記載されていた。
「小林裕さん。担当看護師の吉岡です。よろしくお願いいたします。」
私の言葉に男性は答えることなく、呼吸器に身を預けていた。
小林さん、あなたを待ってる人が居るんだよ。
だからさ、辛いけど負けないよう頑張ろうね。