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3月 6日火曜日(曇り後雨)

うーん…
うーん…

 

はぁ、はぁ。

何とか今回も尿瓶の中にオシッコが出た。

 

 

時間かかったけどやっと出たよ。

だけど導尿だけは死んでもゴメンだ。
あんな思いは2度としたくない。

 

 

 

ふぅー…

…息が苦しい。

ちょっと無理をし過ぎたかもしれない。

 

 

ふぅ…

 

《ゴロゴロ…》

お腹が鳴ってるの訳じゃなく喉が鳴っている音。

喉の穴から痰が溢れ出していた。

 

 

息が苦しい。

ゴホッ

 

 

肺の病気で痰の量が多いうえに出しにくい。
頑張っても上手く痰が出せない。

 

 

呼吸器を外したせいで粘い痰になったのかな…

痰が気道を塞いで、呼吸がしにくい。

ふぅ。

迷惑かけたくないから遠慮してたけど、やっぱり看護婦さん呼ぼう…

部屋に来てくれた時に…と考えてたけど、窒息してしまう。

 

 

 

《カチッ》

ナースコールをそっと押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

おかしいな…
返事もない。

上手くスイッチを押せなかったかな?

 

 

今度こそ。

《カチッ》

グッと力を入れてスイッチを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何で?反応ないの?
ナースコールが壊れてるのか?

 

 

 

 

 

 

『…しばらく待ってくださいね。』

 

 

よかった。
反応があった。
ふぅ…助かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

うぅ…しんどい。
胸が痛い。

 

 

 

何で来ないんだ?
忘れられたのか?

 

 

 

 

 

はぁ、ふぅ…

《カチ、カチ、カチ、カチ…》

 

ゲホゲホ。
たまらず何度も何度もスイッチを連打した。

 

 

《カチカチカチカチ…》

恐怖と胸の痛みでパニックになる。

誰か来てくれ!

はやく!

《ガチャ…》

 

 

 

突然、ノックもなく開いたドア。
立っていたのは看護師さんだった。

化粧が濃い、ふっくらした茶髪の中年女性。

名前も覚えてる。

西岡さん。

やっと来てくれた。
助かった…

 

「…何ですか。」

ぶっきらぼうに言い放つ。

 

 

[たん、しんどい]

ジェスチャーと文字板で看護師さんに伝える。

 

 

…すいませんがお願いします。
胸が痛い。
咳が止まらない。

《カタン、カチ、シュー》

 

 

…痛っ!

無言で乱雑に吸引チューブを突っ込んできた。

 

 

痛い痛い!

喉の奥にそんなに突っ込まれたら痛いよ。
助けて。

 

 

 

「…忙しいときに。何回も鳴らさないでよ。」

小声でブツブツ言っているのが聞こえてきた。

 

 

《ガチャ…バタン!》

出ていった。

 

 

何だ今のは!!

しんどくても呼んだらだめなのか?
我慢しろっていうのか?

 

 

さっきの看護師さんは今までだって

氷枕や薬を頼んで、後で持ってくると言って忘れられたままだったり。

便が出て気持ち悪いのに、少し待ってくださいって何時間か待たされたり。

 

 

 

後で後で後で
少し少し少し

この言葉の繰り返し。
それでも我慢してきた。

病気以外での辛い思い。

惨めさ。

恥ずかしさ。

悔しさ。

 

 

患者は何て弱い立場なんだろうか。

難しい言葉、聞き慣れない言葉での病状説明。

お任せしますとしか言えない。

下手に質問しても嫌な顔される。

こっちは具合悪くて入院してるのに…
お金を払って入院している客なはずなのに…

 

 

 

信頼は普段の積み重ね。

こんな事じゃ身体を預けるのが不安で仕方ない。

身体を拭いてくれたり、オムツ替えたり、痰を取ったり。

ちょっとした事でも、する人によって全然違う。

 

 

適当で乱暴にする人。
優しく一つ一つ気遣って丁寧にしてくれる人。
無言で検温だけして出ていくひと。

その人の性格なんだろう。
面倒くさい、大変な事かもしれない。
だからこちらも、すごく気をつかってしまうのに。

 

 

 

知ってほしい。

毎日、挨拶のとき今日はどの看護婦さんが担当なのかドキドキしてるんだ。

ナースコール鳴らした時も誰が来るかドキドキしてるんだ。

 

 

あなた達は病気をみてるかもしれない。
だけど患者は、あなた達をみてるんだ。

患者同士で噂話してるんだよ。

 

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