痛っ
ん~…
まただ。
時々、胸の真ん中あたりが痛くなる。
しばらく様子みてたら、そのうち落ち着くんだけど。
『今晩は焼肉だーー!』
テレビを見ているとコマーシャルが流れる。
美味しそうな肉…
『新発売!ご飯にかけるだけ♪』
しかし…
普段気づかなかったけどテレビで番組やCMって食べ物の映像が多いなぁ。
『行列のできるラーメン屋ベスト10!』
うぅ
何か食べたいなぁ。
まだ、食べたらダメなのかな…
鼻から流すぐらいなら口からでも食べれそうなのに…
「お白湯流しますね。」
看護師さんにベットを起こされ座った体勢になる。
さっきまでの思惑とは裏腹に鼻の管から白湯が注入された。
ボトルを上から吊して、鼻の管に繋げると中に白湯をいれられる。
液体がお腹に入ってきてる事を想像すると、なんだか気持ち悪い…
意思に関係なく強制的に入れられてるわけだから、ある意味で拷問みたいな感じかも。
あ、昨日も同じ事言ってたなぁ…
「36度5分…」
点滴を抜いてから今日は熱は出てない。
だけど身体は怠いまま。
胸も苦しい。
息苦しいのか痛いのか…
何て表現したらいいんだろうか。
《プシュープシュー…》
まだコイツも離れれずにいるもんな。
「ご飯食べれたらいいんですけどね…」
看護師さんの言葉に思わずうなずいた。
食べたい。
「今、無理して誤嚥して肺炎ひどくなったら、また病状がが悪くなりますからね…」
申し訳なさそうな顔で説明してくれる。
そっか。
でも何か食べたいな…
仕方ないよな…
「おはようございます。小林さん。」
あ、先生、おはようございます。
今日は綺麗にヒゲを剃っているんだ。
寝癖がついてるケド…
「肺に溜まっているお水を明日、抜こうと思ってるんですが…」
お水??
胸に?
「最初に奥さんには説明したんですが…胸に胸水といって、水が溜まっているんです。」
私の身体はそんな風になってたんだ。
何か怖い…
持ち主の知らないうちに他人の身体みたいになってるんだ。
「利尿剤を使って様子みてたんですが…」
駄目だったんですか?
はぁー…
なかなか思い通りにならない身体だな。
持ち主が悪いのかな…
「まだ量が多いので胸に針を刺し体の外に出して呼吸しやすくしたいと考えてるんです。」
…
《プシュー…プシュー…》
「パパぁ、早く元気になって遊んでね♪」
呼吸器を興味深そうに見つめている綾。
昼過ぎになり、保育園が終わると会いに来てくれる。
娘の前で情けない顔はできない。
どんなに辛くても格好つけないと父親失格だ。
綾、パパは頑張るから。
元気になったら、おままごとしような。
負けないから。
絶対に。
それが今のパパの大事な大事なお仕事だからさ。