お昼ご飯を口にできない。さっきの事が頭から消えない。
「ねえねえ、優花。すごかったねぇ。」
私の横で加奈はニコニコして話しかけてくる。
気にせず美味しそうにお弁当を食べてる。
すごい。
平気なんだ…
あんな事の後でもご飯食べれるなんて。
私は患者さんの顔が頭から離れないよ。
朝食べたものがまた、喉までこみあげてくる。
しばらく夢に出てきそう。
気分を変えたくて少し散歩に出た。
空を見上げる。
大きく深呼吸をする。
ふぅーー…
パッと前を向くと視界に入ってきたもの。
掲示板に看護師募集のポスターが貼ってあった。
今は看護師も介護士も医師も不足してるからなぁ…
「あれ?」
ポスターに何か違和感をかんじた。
うーん…
何だろ。
そっか、ナースキャップを被ってるんだ。
医療の世界は変化が激しい。新しい知識、技術がどんどん入ってくる。
治療法、薬、機械
それまで正しいってされてた事が否定されたりする。
昔は白衣にナースキャップが看護婦のイメージ。
だけど今は白衣も減って、スカートも減って、ナースキャップは廃止になってる。
ナースキャップが感染の原因になる危険があったり
引っ掛かたりと動きにくい問題があるため殆どの病院では使用してない。
ちょっと寂しい。
だけど、今でもナースキャップを被る機会はあるんだ。
実習の1ヶ月前。
「我はここに集いたる人…」
暗くした部屋に火の点いたろうそくを各自、手に持ちナイチンゲール誓詞を読み上げる。
実習に入る前の大きな大きなそして大切な行事。
[戴帽式]
一人一人歩いて行って先生の前に立って後ろへ向く。
先生から一人一人の頭の上に順番に看護婦の象徴であるナースキャップが載せられる。
プレッシャーに弱い私は緊迫した雰囲気にガチガチになってた。
男の子が歩いていく。
私の順番はその次だ。
男の子…
そういえば男性看護師も、だんだんと増えてきた。
男の人でも看護士さんじゃなく看護師さん。
看護婦、看護士は医師と同じように専門性という役職から看護師と名称を改められた。
だから、男でも女でも今は看護師って名称になった。
増えたと言ってもクラスに男子の人数はまだまだ少ない。
よく言われる事なんだけど男の人数が少ないからモテるかといえば、別にそうでもないんだよ。
…だけど結局、看護師同士の夫婦は多かったり、看護学生同士のカップルも結構いるんだけどね。
私の番。
ろうそくの光が消えないように、ゆっくりゆっくり歩く。
息をするにも緊張する。
先生にナースキャップをつけてもらってみんなと並んだ。
真っ暗な部屋に灯されたたくさんのろうそくの光。
ゆらゆら揺らめく光。
すごく綺麗な光景。
私は感動してた。
戴帽式で私は看護師に一歩近づいた気がした。
希望に満ちていた。
この先にあるの苦しみも乗り越えていけると思ってたんだ。