しばらく、そのまま座っていた。
ただ、時間が流れてく。
「そろそろ病室に戻りましょうか?」
あまり身体を冷やすと病気によくないよね…
「…。」
原井さんの膝元のタオルケットが濡れてた。
左手はぎゅっと握りしめて拳をつくっている。
私はゆっくりゆっくりと、遠回りをしながら病室にもどった。
病室には誰もいなかった。
みんなリハビリの時間なんだ。
「今日で実習、最後になるんです…最後まで何もできなくてごめんなさい…」
私は頭を下げた。
迷惑ばかりかけた…
余計なこともした…
原井さん、本当にごめんなさい…
「はぁー、まだ実習半分も終わってないかぁ。先は長いねぇ…」
加奈が食べ掛けのハンバーグをフォークでつつく。
恒例のファミレスでの打ち上げ。
夜中でもファミレスは若い人で溢れた。
「…で優花は、また泣いちゃったの?」
うつむいたままの私に、真希が呆れたように言った。
「本当に、優花は泣き虫だもんね。」
加奈が真希の言葉に、からかうように付け加える。
「だってさ…」
あんな事あったら仕方ないよ。
それは私が、原井さんの顔を見れずに病室を出ようと背中を向けたとき
「あ…い…がと…」
え?
聞き慣れない声に、私は思わず振り向いた。
原井さんは笑顔で手を振ってくれていた。
原井さんの言葉と笑顔。
どちらも初めてだ。
麻痺があるのに…頑張って私に見せてくれた。
まるで、私を励ましてくれるかのように…
本当は原井さんの方が辛いのに…
「…。」
気がつくと涙がこぼれてしまっていた。
『ありがとう』って言葉のために、私は看護をしているわけじゃない。
だけど、その一言は
確かに私の心を救ってくれた…
私の方こそ
ありがとう…
この先、不安だったけど…
また頑張っていける元気をもらいました。
本当に
ありがとうございました…