私は逃げない!
間違ってない!
震える足で踏ん張った。
その時、横から出てきた手が男性の腕を掴む。
「原井さん?」
「叔父さん、何のつもり?この馬鹿を庇うの?」
原井さんは左手で男性を引き寄せた。
「あんた判ってるの?俺に見棄てられたら、あんた独りぼっちなんだぜ。」
人を馬鹿にした歪んだ笑顔。
「…」
原井さんは、そっと掴んだ手を離した。
そうだった。
原井さんには、この人しかいないんだ。
私、原井さんに迷惑を…
「そうそう、この子はあんたを一生は看ない。無責任だから言えるんだよ。」
原井さんがゆっくり文字盤を指した。
「で」
「て」
「い」
「け」
男性の顔色が変わる。
「可哀想だとせっかく同情してやってたのにっ!」
男性が原井さんを睨みつけた。
原井さんは臆することなく、真っ直ぐ出口を指差した。
パチパチパチパチ
そのとき、病室で拍手が沸き上がった。
「後悔しても知らないからなっ。」
男性は顔を真っ赤にしたまま病室を出ていった。
ワッと歓声があがる。
「格好いい。」
「スッとしたよ。」
原井さんの元に駆け寄り皆さんが声をかける。
この時、私には原井さんが悲しそうな表情に見えた。