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〃脳外科⑫〃


《すこしだけ》


「そうなんですか。大変でしたね…」


私は原井さんと文字盤を使って雑談していた。


私の手作りの文字盤を、原井さんは使ってくれてる。

嫌がられたらどうしようかと不安だったけど、良かった。



「原井さん、何でお髭を剃らないんですか?」


長く伸びた髭が私は気になってた。
初めて会った時は伸ばしてなかったのに…



《…》



原井さんの動きが止まる。

「ごめんなさい、無理に答えなくてもいいです。」



うぅ…
私、また余計な事聞いたのかな?



《よだれ》


原井さんが文字盤で指した文字。


涎?


「涎ですか?」


原井さんが頷いた。


原井さんは顔面麻痺が残り、本人が知らないうちに涎が流れている。


…それを気にしてたんだ。


原井さんは、せめて少しでも涎が目立たないようにと髭を伸ばしてた。

それなのに無神経に、私は何度も髭を剃るように声をかけてた。



また、無神経だった…

 



「やれやれ…あんた、まだ居たんだ。」


!!


聞き覚えのある威圧的な声。

振り向くと、原井さんの甥が立っていた。



「叔父も可哀想に。こんな学生つけられてさ。」



どっかりとベッドサイドの椅子に腰かけた。



腹が立つよぉ…

うぅ…我慢、我慢。



「…失礼します。」


私は頭を下げてナースステーションに帰ろうとした時だった。




甥がグルッと周りを見渡し言った。



「しっかし、どいつもこいつも涎垂らしたり、オムツしたり…惨めだな。こうはなりたくないよ。」

 



「みっともない姿さらし、人の世話うけて…」
「取り消してくださいっ!」


私は気がつくと叫んでいた。


今の言葉だけは絶対に許せない。

一生懸命、闘ってる患者様を前にして馬鹿にするなんて!!



「あ?」

「あなたの方が、よっぽどみっともないです。」



男性の前に立ち、私は睨んでいた。


ガタッ。


私の言葉にカチンときたのか、顔を真っ赤にして男性は立ち上がった。


「おいっ学生ごときが問題起こして大丈夫なのか?お前、何処の学校だ?」


私の襟首を掴んできた。



…怖いっ…



けど、譲れない!

許せないっ!



何も知らないくせに。

 

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