新しく来た方はパチンコ屋さんで倒れて、病院に運ばれてきたらしい。
診断は脳出血。
幸いにも症状は軽いもんだった。
いつも面会や家族の方が入れ替わりにぎやかな光景が目に入る。
対照的に、原井さんはいつも一人。
面会者もいなくて、相変わらず外ばかり見てた。
洗濯物も山積みになっちゃってる。
伸びた髭も剃らしてくれようとはせず、ご飯も食べない…
そのため、点滴を持続で投与されるようになってしまってた。
「すいません、ありがとうございます。」
私は看護師さんにお願いして、原井さんの前の入院のカルテを見せてもらった。
何か私にできることがないのかな。
何かヒントはないかな。
カチ、カチ…
パソコンの画面に表示された原井さんの情報。
前回の発症時は、原井さんも軽い痺れくらいのものだった。
「え…」
5年前の原井さんの看護記録。
そこに記されてたのは明るく、お喋りなお爺さん。
同室の患者様とも、楽しそうにお話をしてたみたい。
点滴治療から内服治療へと変わると退院へ。
独り暮らしだったため、介護サービスや施設なども薦められたけど
『人の世話を受けてまで生きたくはない。』
と拒否した。
この時はまだ、自分の事は自分で出来る程度の病状だった。
…でも、今回はサービスを受けないわけにはいかないよね。
病気って、それまでの人の生活をあっさり変えてしまう…
残酷だよね…
私ができる事なんて些細なことしかない。
一生、何かをしてあげれるわけでもない。
でも…
それでも何か力になりたいよ…
カルテを見ていて気づいた事がある。
原井さん、お風呂が好きだったみたい。
なぜなら前の入院の時は毎日入ってたんだ。
今は介助での入浴だから、週2回ぐらいしか入れないけど…
そういえば、お風呂だけは拒否しないんだよね。
「よし。」
私は大きな洗面器にお湯を溜めて、原井さんのところへ行った。
「原井さん、足浴しませんか?」
私は原井さんを車椅子へ介助して、洗面器中にゆっくりと足をつけた。
一瞬、原井さんの足がピクッととなる。
「熱いですか?」
原井さんはゆっくりと首を左右に振った。
足浴は、お風呂に入ったような気分に少しだけなれる。
「大丈夫ですか?」
足のマッサージをしながら、原井さんのお顔を見てみた。
原井さんは気持ちよさそうに目をつぶっていた。