カチャカチャ。
真希がお皿の上のポテトを横にのけ1本だけ残した。
「今は自宅で一人だけで暮らすお年寄りも増えてるよね。」
フォークで残ったポテトをつつく。
「やっぱり子供に迷惑はかけたくない、自分の家は出ていきたくない…理由はいろいろだけどね。」
…そういえば、河田さん、お嫁さんにお世話してもらうの遠慮していたっけ。
気をつかっていてオムツ替えてもらうのも申し訳なさそうだったな…
「孤独死…家族からしたら施設で看てくれた方がその心配もなくなるよね。」
何かあった時、助けてもらえない可能性がある一人暮らし。
それは病気だけとは限らず、事件や事故に巻き込まれる可能性があったりもするもんね。
でもさ
「だったら、やっぱり一緒に暮らしたらいいと思うもん。家族なんだから。」
「優花は簡単にいうけどさ…問題は介護なんだよ。」
真希は目をふせながらボソリと話す。
「介護が?」
私はその言葉に首を横に傾けた。
「あのねぇ、病院で看ると家で看るのは全然違うんだよ。」
加奈は私達の会話には興味がないらしく携帯を触っていた。
真希は私の顔をキッと見つめた。
怖い顔だった…
「共働きも多いし、高齢化社会だから介護する人もお年寄りだったりすることもあるんだよ。」
「うーん…」
でもさ…家族なんだよ…
私は心の中で呟いた。
「あなたは、今の生活の中に母親をお世話する事になったとしたら看れますか?24時間休みなしにさ。」
「…」
真希の言葉に何も言い返せなかった…
必ず看る…けど…
介護が必要なら長時間留守にできないし
息抜きできる時間もほとんどない。
退院みたいなゴールがあるわけでもなく
私が無理して倒れたら、逆に迷惑かけてしまう…
私は真希と目を合わせれず、空っぽになったコップをじっと見つめてた。
真希はお姉ちゃんが看護師してるためか、こういった事は変に詳しかった。
加奈も母親が看護師をしてる。
親子や姉妹が看護師なんていうのは案外珍しいものじゃないんだよね。
「ごめん、優花。言い過ぎた。あんたが悪いんじゃないのにさ。」
はっと我に返ったのか、真希が申し訳なさそうに頭を下げた。
「ううん…そんなこと…」
なんとなく居心地が悪くて空っぽのコップを持って、お茶を入れるため席を立った。
…高齢化社会の今、介護は身近にある大切な問題。
病院は退院後の事まできちんと考える事が求められてる。
無責任にすぐ退院させるだけでは通用しなくなっていた。
だから
何が正解か
何が幸せか
すごく難しい…
「あ。」
考え事しながら入れたお茶はコップから溢れ、溢れてしまった。
施設も今足りず、希望者が溢れてる状態。
簡単に可哀想…とか当事者でもないのに口にするなんて私の方が無責任だ…
『家で何かあった時、どうしたらいいか解らないから怖くて…』
実習中にお嫁さんが口にしてた言葉。
何気なく聞き流してしまった。
家族にとっては避けれない大切な問題だった。
「私さ、思うんだけど施設の方が幸せな事もあるんだよね…」
私は真希の言葉に頷いてた。
そうだね…
生活のお世話してもらえて、お友達も周りにいて、行事もあって…
何かあったときも誰か居て診てもらえる。
人によってはそっちの方が幸せと答える人もいるんだろうね。
お年寄りがお年寄りを介護する時代だからこそ…居場所変わっているかな…
私には、もう何が正しいのかわからなくなった…