翌日だった。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします。」
「吉岡さん、ちょっと。」
ナースステーションに入ると師長さんに呼ばれた。
なんだろ?
「昨日、河田さんのポータブルトイレ近くに置いたままにしてた?」
トイレ…
そういえば昨日、トイレの声かけして…
!!
「すいませんっ!そういえば私、トイレ声かけして…」
そのままだった。
「…その後ね、河田さん一人でトイレ行こうとしてベットから落ちてしまったのよ。」
「え?」
サーっと頭から血の気が引いていくのを感じた。
私のせい…
私、とんでもないことをしてしまった…
「幸いね、外傷はなかったんだけどね。」
河田さんは私の言葉を思いだし、自分でトイレ行こうとしてベッド柵を乗り越えた。
筋力が弱ってたためバランスを崩し床に落ちてしまったのだ。
「河田さん、ごめんなさい…私…」
私は真っ直ぐに病室に行き、お嫁さんと河田に頭を下げた。
「いいのよ、優花ちゃん。こちらの不注意なんだから気にしないで。」
お嫁さんが優しい言葉をかけてくれた。
「でも…」
身体に傷は無くても、心の傷は大きなものだった。
河田さんは落ちた恐怖からかリハビリをしなくなってしまった。
「怖い。嫌だよ。」
リハビリを嫌がってベッドから離れなくなってしまった。
残念ながら学生の実習時間は一つの場所でそんなに長くない。
ローテーションでいろんな病棟を回るためある程度期間が経てば次の病棟へと変わる。
私の最初の実習が終わろうとしていた。
「優花ちゃん、ちょっと毛布を取って。」
「あ、はい。どうぞ。」
河田さんはやっぱり動こうとしないまま。
廊下でお嫁さんから聞いた話。
「実は介護保険申請してるの。家では看れないから施設を利用しようと思って…」
目をふせがちにポツリと出た言葉に耳を疑った。
「え?何で?」
驚いて思わず言葉に出してしまった。
私は家に帰るものとばかり思ってたんだ。
だって…それが当たり前だと思ってたよ。
「主人とも相談してたの。私だって仕事もあるし、子供のこともあるし…」
今回がたまたまきっかけになっただけで、以前から考えてた事らしい。
河田さん、可哀想…