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3月19日月曜日(快晴)

ボサボサだ。
みっともないなぁ。

 

 

 

 

「どうしたんですか?」

私は鏡とにらめっこしていた。

不思議そうに、優花ちゃんが声をかけてきた。

 

 

[かみ、のびた]

髪の毛の先をつまんで見せた。

入院してから、散髪してないから結構長くなった。

横になっている時間が多いから、髪が逆立ってすごいことになってる。

 

 

不細工な顔が更にひどい。
髪型で人の顔って、結構変わるから、何とも情けない姿になっていた。

 

 

「散髪します?」

え?

 

 

「今日は月曜日だから、病院に散髪屋さん来てくれてるんですよ。」

知らなかった。
そういえば、床屋は月曜日に休みの事が多い。

 

 

それに合わせて、病院に来て外に出れない方のために散髪をしてくれてるらしい。

[きりたい]

気分転換にもなるしさっぱりしたいな。

 

 

 

 

 

 

《キョキ、キョキ》

心地いいハサミの音。

ニコニコしたおばさんが、私の伸びた髪をカットしてゆく。

 

 

 

「大変ねぇ。頑張ってくださいね。」

差し当たりのない言葉をかけてくれた。

病院なので、散髪のための専用の設備があるわけでない。
少しのスペースを借りカットするだけ。

 

 

小気味よくハサミが動く。

髪を切ってもらうのは十数年ぶりになる。
ずっと自分で髪を切ってたんだ。

 

 

 

「結婚してるの?子供は?私はもう中学生の子供がいるのよ。」

聞いてもない事をいろいろ話しかけてくるおばさん。

以前は、これが苦痛で床屋から足が遠退いた。

 

 

知らない人とコミュニケーション。
仕事の事、家庭の事、趣味の事…

どうでもいい会話が苦痛で仕方なかったんだ。

 

 

今は言葉を話せない。
会話はできないけど、以前みたいに嫌な気はしなかった。

今は、人に触れる事がなんだか新鮮だし楽しかった。

 

 

「はい、終わったよ。男前になったねぇ。」

頭を下げて病室に帰った。

 

 

 

「おかえ…ぷっ」

私の顔を見て、陽子の表情が緩んだ。

 

 

何だよ。

鏡を手渡された。

覗き込んでみて理由がわかった。

私自身もその姿に思わず吹き出してしまった。

 

 

 

スポーツ刈り。
私の顔に似合わないことこの上ない。

横で陽子が笑いをこらえてる。

 

 

「わぁ、小林さん。似合いますね。」

優花ちゃんは笑顔で言ってくれているが…絶対似合ってないよ。

 

 

とほほ。

 

 

「あ、小林さん。今日から呼吸器を止めますね。」

はーい。

 

 

…って、今何て?

 

 

「呼吸の状態よくなりましたので、寝るときも酸素で大丈夫みたいですよ。」

外せるの?
本当に?

 

 

「しばらくは念のため呼吸器はそばに置いておきますけど。」

入院してからずっと離れなかった音が消えるんだ…

 

 

機械の音から解放される。

やったぁーーーー!!

 

 

 

…でも、少しだけ寂しい。
どんな時も他の誰よりもずっと一番傍でいてくれた。

生命をつなぎ止めてくれてた。

 

 

 

バイバイ。
きかいのおと。

ありがとな。

 

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