ボサボサだ。
みっともないなぁ。
…
「どうしたんですか?」
私は鏡とにらめっこしていた。
不思議そうに、優花ちゃんが声をかけてきた。
[かみ、のびた]
髪の毛の先をつまんで見せた。
入院してから、散髪してないから結構長くなった。
横になっている時間が多いから、髪が逆立ってすごいことになってる。
不細工な顔が更にひどい。
髪型で人の顔って、結構変わるから、何とも情けない姿になっていた。
「散髪します?」
え?
「今日は月曜日だから、病院に散髪屋さん来てくれてるんですよ。」
知らなかった。
そういえば、床屋は月曜日に休みの事が多い。
それに合わせて、病院に来て外に出れない方のために散髪をしてくれてるらしい。
[きりたい]
気分転換にもなるしさっぱりしたいな。
《キョキ、キョキ》
心地いいハサミの音。
ニコニコしたおばさんが、私の伸びた髪をカットしてゆく。
「大変ねぇ。頑張ってくださいね。」
差し当たりのない言葉をかけてくれた。
病院なので、散髪のための専用の設備があるわけでない。
少しのスペースを借りカットするだけ。
小気味よくハサミが動く。
髪を切ってもらうのは十数年ぶりになる。
ずっと自分で髪を切ってたんだ。
「結婚してるの?子供は?私はもう中学生の子供がいるのよ。」
聞いてもない事をいろいろ話しかけてくるおばさん。
以前は、これが苦痛で床屋から足が遠退いた。
知らない人とコミュニケーション。
仕事の事、家庭の事、趣味の事…
どうでもいい会話が苦痛で仕方なかったんだ。
今は言葉を話せない。
会話はできないけど、以前みたいに嫌な気はしなかった。
今は、人に触れる事がなんだか新鮮だし楽しかった。
「はい、終わったよ。男前になったねぇ。」
頭を下げて病室に帰った。
「おかえ…ぷっ」
私の顔を見て、陽子の表情が緩んだ。
何だよ。
鏡を手渡された。
覗き込んでみて理由がわかった。
私自身もその姿に思わず吹き出してしまった。
スポーツ刈り。
私の顔に似合わないことこの上ない。
横で陽子が笑いをこらえてる。
「わぁ、小林さん。似合いますね。」
優花ちゃんは笑顔で言ってくれているが…絶対似合ってないよ。
とほほ。
「あ、小林さん。今日から呼吸器を止めますね。」
はーい。
…って、今何て?
「呼吸の状態よくなりましたので、寝るときも酸素で大丈夫みたいですよ。」
外せるの?
本当に?
「しばらくは念のため呼吸器はそばに置いておきますけど。」
入院してからずっと離れなかった音が消えるんだ…
機械の音から解放される。
やったぁーーーー!!
…でも、少しだけ寂しい。
どんな時も他の誰よりもずっと一番傍でいてくれた。
生命をつなぎ止めてくれてた。
バイバイ。
きかいのおと。
ありがとな。