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5月 2日水曜日(晴れ)

5月2日水曜日(晴れ)

「ああ、もう動けよ!」

また渋滞か。
だから、わざわざ混むところに行きたくなかったのにさ。

 

 

「あなた…煙。」

え?
陽子の指差す先を見るとボンネットから煙が立ち上っていた。

「おいおい、ちょっと待ってくれよ!」

慌てて脇道に避けた。

 

 

 

ああ、もう!
初詣の帰りなのについてないなぁ!

お賽銭も何のご利益もないじゃないか。

 

 

「はぁ…」

電話でJAFに以来したけど渋滞のため到着までかなり時間かかるって…

 

 

 

「ったく、やってられないなぁ。」

車から降りて腰かけた時だった。

車から声が聞こえてきた。

 

 

 

「あなた。横!」
「パパ、助けて!!」

1台の車が突然、陽子と綾の乗ったままの車に突っ込んできた。

 

 

 

うわぁあぁぁああぁああっ!!」

 

 

 

 

 

 

『裕、大丈夫かい?』





《プシュープシュー》











ああ、夢…か?





『裕、ヒゲが大分伸びてるのね。』




小さな頃から聞きなれた声が耳元から聞こえてきた。


 

『もう。相変わらず、だらしないねぇ。』



頭をそっと撫でてくれる。


お袋。



ったく、いつまでも子供扱いするなよな。



心の中で突っ込みながらも、何か凄く懐かしく嬉しかった。



『なぁ裕、男なら絶対負けるな…』



ぶっきらぼうに

でも、力強い言葉が少し離れたとこから声をかけられる。





親父。





二人とも元気なのか?


しっかり飯食ってるのか?


身体壊してないか?





ちぇ。
顔が見えないからわからないな…



でもさ
私も顔を合わすとどんな顔していいかわからないから丁度いいのかな…







いい歳して心配ばかりかけてバカ息子だな。




そういえばさっきの夢。


本当はあの時。



正月の初詣の帰り道だったっけ。


おみくじは皮肉にも大吉だったのに散々だった…




渋滞の中でエンジントラブルで帰るのが遅くなったんだ。


突然、ボンネットから煙が出てエンジンが止まってびっくりした。


ようやく直り、暗い夜道を直した車を走らせ帰っていた。



そんなにスピードは出してなかった。



!!



突然脇道から車が突っ込んできたんだ。


《キキキキキーッ!》


すぐにブレーキを目一杯踏んだ。


 

《ガッシャーン!!》



だけど衝突は避けれずぶつかってしまった。



シートベルトしていても身体が前に放り出された。


後ろには生まれて間もない綾がチャイルドシートに座っていた。


衝撃でしばらく動けなかった。

 

 



「オギャー!」

!!



綾の泣き声で止まっていた思考回路が動き出した。



 

「すいません…」


相手はお酒を飲んでいた若者だった。


しかも、こちらが優先道路。
あちらが飛びだし右折してきた。


「いたい、いたい、いたい、いたいよ…」


助手席に座っていた女の子がパニックをおこしていた。



救急車ですぐに病院へ行く。




《ピーポーピーポー》


初めて乗った救急車。

それよりも、皆の身体が心配で仕方なかった。





「裕、大丈夫かい?」


事故を聞きすぐに病院にかけつけたお袋と親父。


「ああ、心配かけてゴメンな。」


幸い、私も陽子も綾も怪我はなかった。



二人とも息を切らしていた。


お袋は泣いてた。

平静を装っていた親父も顔色が変わっていた。







いつも心配かけてばかりでゴメンな…



寿命を縮めさせてしまってるな…




唯一、親孝行できた事といえば孫ができた事か。



もう、六年になるのか。



時代の流れのせいか、かかり付けの産婦人科が潰れてしまったんだ。



出産間近だった私たちは渡された紹介状を手に焦っていた。




「裕、あそこの病院はどうだい?」



お袋の進めで私が生まれたのと同じ総合病院で出産することにした。


 

 



そして予定日より1週間ほど遅れていた日。


「うぅううぅ…」


「もしもし、すいません。小林なんですが。」


夜中に陣痛があり、慌てて車を走らせ病院へ向かった。


 

 

《ピンポーン》


夜間入り口のインターホンを押し、すぐに分娩室へ。


「うぅーう、あぁああ!



陽子が唸る。

不安と痛みから私を握る手に力が入る。



「がんばれ!」


私は無力で、声をかけるのが精一杯だったんだ。

男って情けない。

いざというときは何もできない。

ただ、あたふたするだけだった。




…しばらくして




「オギャア!」







綾、


お前が生まれた時は本当に小さな小さな赤ちゃんだったよ。



新生児室に並べられた綾は周りの他の子より一回り小さかった。


自分が父親になった瞬間だった。


何か不思議な光景…
他人事のような…




「陽子さん、頑張ったねぇ。」



この時も夜中でも関係なく、すぐに病院に駆けつけてくれた親父とお袋。

初孫に二人とも目尻が下がりっぱなしだった。


バンッ!


無言で親父が私の背中を叩いた。



背中に痛みより責任感が強く感じた。




そして数年経ち…




「おぉ綾、よく来たなぁ~。」


「おーい、じぃじ。元気かぁ?」



怖い親父が綾には甘かった。

ジィジと呼ばれると目尻がグッと下がる。

デレデレと言う表現がピッタリだった。



「えいっ!」


「こら、痛いって。わははははは。」


綾がヒゲを気にいって、いつも引っ張ったり触ったりする。

親父は嬉しかったみたいで、それからヒゲを伸ばすようになった。





「じぃじ、ばーか。」


「元気だなぁ、わははははは。」


叩かれたり、蹴られても怒らない。

それどころか…



「綾。ほら、新しいクマさんだよ。」


「ちょっと、あなた。いい加減にして下さい。」

何でも買うから服やおもちゃ、絵本がいつも溢れていた。


半ばあきれながら親父を怒るお袋。






デレデレしながら、嫌な顔一つせずオムツを替えてる親父の姿。


その光景が私には面白くて仕方かなった。




家に居ても



《プルルル♪》


「綾。ばぁばから電話よ。」



照れ臭いのか、威厳を保ちたいのか、親父は自分からは絶対電話をかけなかった。



しばらく会えないでいると、用もないのにお袋に電話をかけさせる。

綾が出ると電話を代わる親父。




孫の存在が本当にかわいくて、かわいくて仕方ないんだろうな…





なあ



親父


お袋



今まであまり口にした事ないけどさぁ




いっぱい感謝してます。




生んでくれてありがとう。
育ててくれてありがとう。





そして






ごめんなさい…




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