４月18日水曜日（曇り）
…何か生臭い匂いがする。
気のせいかな？
《プシュープシュー》
…
《プシュープシュー》
んー…
やっぱり臭い。
絶対に気のせいじゃない。
前より臭いが強くなっている。
気持ち悪い。
生ゴミでも置いてるのか？
ったく、誰だよ。
もしかして陽子かな？
いつも「もったいないもったいない」って言って
捨てずに取っておく癖あるからな。
いつも家が片付かないで物が溢れている。
ひどい目にあったのが、冷蔵庫にあったジュース。
変な味がすると思ったら賞味期限が一ヶ月前…
文句いったら
「賞味期限と消費期限は違うのよ」ってけろりと答えた。
私は数時間トイレから出れなかった…
『失礼します。』
《ガチャ。ガラガラ》
看護師さんだ。
処置と清拭の時間。
また人の頭の上で、おしゃべりするんだろうな…
この匂い大丈夫だろうか？
若い女の子に「臭い臭い」言われるのはショックだからなぁ。
もう数年したらオヤジになって、当たり前のように綾に言われているかもしれないが…
今はまだ免疫力がついてない。
『そっち持ってね。』
『はーい。１、２の３。』
いたたた。
横に向けられた時ベット柵に足が当たった。
ったく。
もう少し優しくしてほしいな。
『早くしてね。重たいんだから。』
『ちょっとぉ、しっかり支えててよ。』
１日２回のお尻の処置。
最近人が来なくなった部屋だけど、この時だけはにぎやかになる。
一人では処置できないから必ず数人でやってくる。
情けない事だけど、少し楽しみな時間。
だって、寂しいのが少しだけマシになるんだ。
少しでも気が紛れる。
『またポケット深くなってるね…』
『栄養状態も良くないし、熱も続いてるしね…仕方ないよね…』
しっかり体位も変えてくれてるし、クッションも使って除圧して、毎日処置もしてるけど…
一行に床擦れは良くならなかった。
『えい。』
冷たい。
…痛い痛い。
穴が空いて袋みたいになった所に水でゴシゴシ洗う。
これが痛い…
まだ私は生きてるんだと実感する。
『…出血増えたね。』
『浸出液もすごい多い…匂いヒドくなってる。』
『うん。マスクしてなかったらキツイよ。』
え？何？
この酷い匂いは私の匂い…
この生ゴミのような臭いは私が発してたのか？
《プシュープシュー》
『よし、終わったよ。』
『お疲れ様ぁ。』
《パタン》
《プシュープシュー》
…
私の体はもしかして腐ってる？
だから悪臭を放っているのか？
こんな匂いのする部屋、誰が来るんだよ…
私だったら嫌だ。
近寄りたくないよ。
《プシュー》
そっか…
お前はいつも我慢してくれてるんだな。
ごめんな。
お前は逃げられないもんな…
お願いだ…
身体を返してくれ…
たとえ、死ぬにしてもきれいな身体で死にたい。
たとえ生きるにしてもマシな姿で生きたいんだ。
手も足も顔もパンパンに腫れた身体
穴があちこち空いてる身体
腐ってしまって生ゴミの臭いがする身体
せめて元に戻してくれ！！
私の躰を…
なんで、こんな事になってしまったんだ？
おいっ！
誰か答えろよ！
返せよ！
私から奪ったものを返せ！