「小林さん。」
…
「小林さん。」
!
ボーっとしてた。
目の前に優花ちゃんが立っていた。
肩で息をしている。
だけど、顔は笑っていた。こんな笑顔は初めて見た。
すごく嬉しそう。
何かいい事あったのかな?
[どうし、たの?]
こちらも笑顔になる。
相手がニコニコしてると不思議と、こっちも嬉しくなる。
気持ちって伝染するものなのかな?
「えへへ。」
目をキラキラさせていた。
だけど何も言わず子供っぽく笑った。
私は首を傾げ、陽子と顔を見合わせた。
どうしたんだろう?
何があったんだろ?
優花ちゃんは一度、大きく息を吸うとゆっくり口を開いた。
「…明日、車椅子に座るってリハビリの先生が言ってましたよ。」
なーんだ、車椅子か…
何があったのかと思…
…ん?
横を向くと、陽子は驚いた顔から笑顔へと変わった。
…え?
まって。車椅子って言ったのか?
つまりベットから離れられるって事?
もしかして、この部屋から出れるの?
1ヶ月以上、ずっと閉じ込められてた。
この壁に囲まれた同じ風景からやっと解放されるの?
[ホント、に?]
「はい、リハビリの先生が佐々岡先生に相談してたんですよ。」
ニコニコと笑顔で答えてくれた。
優花ちゃんはまるで、自分の事みたいに喜んでくれている。
陽子にいたっては涙がこぼれていた。
有難う…
解放される喜びはあった。
だけど、それとは別に私の事で一緒に喜んだり、泣いたりしてくれてる人が傍にいる事。
すごく嬉しかったんだ。
私は一人じゃなかった。
そっか…
よかった…
ずっとずっと…
もしかして永遠につづくとさえ思っていたベッド上での生活。
ようやく外の世界へいけるんだ…
鎖につながれた犬。
籠の中の鳥。
檻の中の虎。
その苦しみがわかる。
私は病室という四角い檻の中、呼吸器という鎖につながれ動けずに過ごした。
病気という名前の悪魔のせいで。
それが、どれだけの拷問だったか…
自分の足が動かない事がどれだけ辛い事か。
苦しくて
悲しくて
悔しくて
やっと…
痛っ!
みぞおちの辺りがいたい。
ふぅ…
明日か…
子供の時の遠足みたいにドキドキする。
今夜、眠れるかな?