「では、始めましょう。」
ベッドサイドに看護師さんと先生が立つ。
先生が手袋を着ける。
どきどき…
緊張する。
「では、吸引とガーゼ準備してください。」
「はい。」
先生の声に看護師さんが吸引器のスイッチを入れた。
《シュー》
「新しいカニューレと注射器、あと消毒も。」
「はい。」
並べていたモノを手際よく渡す。
冷たい。
喉のところを消毒する。
「ゼリーを。」
「どうぞ。」
先生がヌルヌルしたものを新しい管の先端に塗りつけた。
「さあ。小林さん、いきますよ。」
え?
注射器で空気を抜く。
一気に管を抜く。
そして、そのまま新しい管を喉の穴に突っ込む。
痛い。
喉に痛みが走る。
「終わりましたよ。」
あれ?もう終わり?
「お疲れ様でした。」
有り難うございました。
管の交換は毎週しないといけないらしく、知らないうちに前も交換していたらしい。
「管が抜けないようにヒモで結んでおきますね。」
はい。
お願いします。
やれやれ、無事に終わったよ。
ふぅー。
「あ。」
何?
陽子が驚いた顔している。
ナースコールを押した。
《どうしました?》
「看護師さん、主人の管を変えたところ出血してるんですが大丈夫ですか?」
血?
血が出てるの?
しばらくして看護師さんが部屋へ来た。
「大丈夫ですよ。今日はしばらく出血あるかもしれませんが、出なくなりますからね。」
そう言うと、新しいガーゼを準備してくれた。
「ガーゼだけ交換しておきます。」
よかった。
大丈夫なんだ。
一つ一つの事に不安になるから説明してくれると安心する。
だけど…
まだ、管は抜けれないのかな?
喉の穴を塞ぐ事はできないのかな?
…いつまで病人なんだ?
病気はいつ治るの?
本当に治るの?
いつになったら喋れるようになるの?
結局、不安で不安で仕方ない。
「あなた、少して出くるわね。」
[うん]
ナースコールを手に届くところに置いてくれた。
「じゃあ。」
陽子は手を振ると病室から出ていった。
…
静かだ。
《カチ》
『…その時に…』
…
テレビのスイッチを入れるがつけておくだけ。
見る気にはならない。
身体がしんどいと何もかも面倒くさい。
最近、陽子が不在の時間が増えてきた。
家の事、綾の事もあるし、私の洗濯物なんかも持って帰って干している。
忙しい思いさせているから仕方ない。
病気が多少落ち着いてきているってことだ。
そう信じていいんだよな。