…眩しい。
朝は平等に訪れるんだ。
現実はこんなに不公平なのに。
ふー
ため息も無意識に出る。
一日何回してるんだろ。
四方壁に囲まれて一人ぼっち。
圧迫感で息が詰まりそうになる。
何もする事がないから、ぼーっと点滴が落ちるのを見つめていた。
ポタッ…
ポタッ…
規則正しく私の身体の中に入ってくる。
いたい。
背中が痛い。
モコモコした空気のマットの上で身体をずらすためベット柵を握った。
よいしょ…
あれ?
…手が動かせる。
身体が前よりずっと動く。
気のせいじゃない。
リハビリが効いてるんだ…
何でもいいから
少しでいいから
こんなふうに良くなってるのがわかれば不安もマシになる。
やる気が沸いて来る。
少しは良くなってるんだ。
嬉しい。
《ガチャ》
「ぱぱぁ、おはよ」
「あなた、おはよう」
元気な声。
無邪気な笑顔。
病室がにぎやかになる。
おはよう。陽子、綾。
だけど、二人とも疲れた顔。
それでも普通に振る舞ってくれる。
有り難うな。
しばらくしてノックの音。
「おはようございます、小林さん。」
おはよう、優花ちゃん!
いつもと変わらない笑顔。
昨日の事が夢か何かのようだった。
だけど、目が少し腫れていた。
何があったのか…
昨日のことは聞きたくても声が出せない。
惨めなもんだ。
午前は検査、リハビリ、検温、回診、面会と人の出入りが多い。
少し疲れるけど独りよりかは救われる。
くだらない事考えなくてすむから。
優花ちゃんと一緒に先生も顔を見せる。
「おはようございます。具合どうですか?」
佐々岡先生。
確か今日は当直明け。眠たそうな顔をしていた。
昨日の夜は救急車多かったもんなぁ。
無精ひげはいつものとおりなんだけど。
「ちょっと失礼します。」
素早く優花ちゃんが私の病衣をめくる。
先生がゆっくり聴診器を胸にあてる。
冷たい。
思わず少し身体がビクッとなった。
「…」
次にお腹を触る。
クセかもしれないが、いつも無言になり眉間にシワが入る。
難しい表情。
この仕草はすごく不安にさせる。
もしかして悪くなってるのか?
「小林さん、熱が下がりませんね…」
検温表、採血データとにらめっこしながらボソボソッと話しかけてくる。
はい、ほぼ毎日出ます。
今の私は氷枕が友達です。
吊ってある点滴の袋を指差しながら説明してくれた。
「点滴するための管が、股の所に入ってますよね?」
はい。
確かカロリーの高い点滴入れるために太い血管に入れたって…
「その管から血管の中に、ばい菌が入って感染をおこしている可能性がありますね。」
そうなんだ。
え?
感染??
それってやばくない?
大丈夫なのか?
私、もしかして死ぬのか?
「大丈夫ですよ。おそらく点滴の管を抜けば熱は下がります。」
私の顔を見て慌てたように手の平を左右に振った。
私、どんな顔してたんだろうか?
先生、点滴を抜いてください…
熱が下がるなら、それだけでも楽になります。
身体の管が一つでも減ると嬉しい。
点滴って落ちてるかどうか、いつも気になってしまうしね。
…でも、栄養や薬はどうなるんだろ?
「代わりに鼻からへチューブを入れて、そこから胃の中へご飯や薬を流すようにします。」
…結局管は減らないんだ。
しかも鼻からご飯って。
はぁ…
またため息が出る。
出したいのはため息じゃなく元気なのになぁ。
仕方ないよな。
頑張ればきっと元気になれる。
信じて頑張るしかない。
だって他に選択肢がないんだからさ。