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〃脳外科⑯〃




しばらく、そのまま座っていた。




ただ、時間が流れてく。





「そろそろ病室に戻りましょうか?」



あまり身体を冷やすと病気によくないよね…



「…。」




原井さんの膝元のタオルケットが濡れてた。

左手はぎゅっと握りしめて拳をつくっている。




私はゆっくりゆっくりと、遠回りをしながら病室にもどった。



病室には誰もいなかった。

みんなリハビリの時間なんだ。



「今日で実習、最後になるんです…最後まで何もできなくてごめんなさい…」



私は頭を下げた。



迷惑ばかりかけた…

余計なこともした…


原井さん、本当にごめんなさい…


 

 

 

 

 

 



「はぁー、まだ実習半分も終わってないかぁ。先は長いねぇ…」



加奈が食べ掛けのハンバーグをフォークでつつく。


恒例のファミレスでの打ち上げ。



夜中でもファミレスは若い人で溢れた。




「…で優花は、また泣いちゃったの?」



うつむいたままの私に、真希が呆れたように言った。


「本当に、優花は泣き虫だもんね。」


加奈が真希の言葉に、からかうように付け加える。




「だってさ…」



あんな事あったら仕方ないよ。


 



それは私が、原井さんの顔を見れずに病室を出ようと背中を向けたとき




「あ…い…がと…」




え?




聞き慣れない声に、私は思わず振り向いた。



原井さんは笑顔で手を振ってくれていた。



原井さんの言葉と笑顔。
どちらも初めてだ。


麻痺があるのに…頑張って私に見せてくれた。



まるで、私を励ましてくれるかのように…


本当は原井さんの方が辛いのに…




「…。」



気がつくと涙がこぼれてしまっていた。




『ありがとう』って言葉のために、私は看護をしているわけじゃない。



だけど、その一言は

確かに私の心を救ってくれた…




私の方こそ


ありがとう…


この先、不安だったけど…

また頑張っていける元気をもらいました。




本当に

ありがとうございました…

 

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