すごい…
なんで、あんなに強いんだろ?
樋口さんのこと考えながら、廊下を歩いてた時だった。
「吉岡さん、原井さんの様子はどう?」
肩を叩かれ振り替えると、師長さんが立っていた。
「原井さんはまだ戸惑ってるみたいで…でも同室の皆さんは前を向いて頑張っててすごいですね。」
私の言葉に師長さんは、首を振った。
「誰もが病気は辛い…そして怖いものよ…簡単に受け止めれる人はいないわ。」
「え?」
ナースステーションに戻ると師長さんは、樋口さんの事を話してくれた。
「樋口さんだって最初はショックが強くてね…毎日、毎日泣いていたのよ。」
え?あの樋口さんが?
「治療もリハビリも拒否してね、ベッドの周りにあるものを投げ飛ばし自暴自棄になってたわ。」
「…。」
浅はかだった。
私はいつも単純に受け止めてしまう。
苦しみも、悲しみも隠しながら人は生きているのに…
「リハビリ室へ行ってきます。」
ナースステーションでの話しが終わって、原井さんをリハビリ室へ迎えに行く途中だった。
「あれ?樋口さん。」
車椅子に座った樋口さんが病院の外へ出ていった。
「どうしたのかな?」
少し心配になって後をつけてしまった。
人気のない場所。
…そこに自分の足を叩いて涙をこぼす樋口さんの姿があった。
「ちくしょー…ううぅぅっ…」
平気なんかじゃない…
今も闘ってる…
悔しさ
やりきれなさ
歯痒さ
病院は誰もが病気や怪我という、理不尽で一方的な現実と闘ってる。
ここはそういう場所なんだ…
私は何も声をかける事ができなくて、静かにその場を後にした。
障害を受け入れ、一生懸命リハビリする皆さんの姿は原井さんに大きな影響を与えた。
原井さんもリハビリに向き合い、いつから表情が豊かになってきた。
私は原井さんが寂しそうと思い、考えた部屋移動。
師長さんは、違う事を考えてた。
私みたいな元気な身体の人がかける100の言葉より、同じ苦しみを持つ人の頑張る姿。
どれ程の説得力があるか。
そんな看護の仕方もある事をこの時、初めて知った。