∞脳外科∞
「あ”ぁぁぁぁあっ!」
!!
突然の叫び声に思わず身体がビクッとなった。
あ。
皆さんがこちらを見てる。
えっと…
気を取り直して
「今日から、この病棟で実習させていただきます。学生の吉岡です。お願いします。」
背筋を精一杯伸ばし、ぺこりと頭を下げた。
病棟のスタッフに挨拶をさせてもらってたところだ。
今日から脳外科病棟での実習が始まる。
スタッフはあまり興味なさそうに、チラッとこちらを見た後は忙しそうに手を動かしていた。
「学生さん、とりあえず環境整備に回ってて。」
主任さんからバケツと布巾を渡された。
うぅぅ~…
実習って、いつもスタッフにも緊張するんだ。
学生という立場上、病棟では片身が狭い。
時には無視されたり、冷たい態度とられることもあるしね…
「失礼します。周り拭かさしてくださいね。」
私は環境整備しながら、そんな事を考えていた。
ちなみに環境整備とは、ベッドや床頭台など患者様の身の回りのお掃除をすること。
入院中、ベッドが患者様の生活スペースになり、食事をしたり処置をしたりと不潔になりやすい。
こうして、綺麗にすることも看護の一つだ。
「ありがとう。」
拭き終わると患者様が微笑んでくれた。
「あ”ぁぁぁぁあっ!」
!!
また、あの叫び声だ。
怖いなぁ…
って、今のは隣の病室から聞こえたみたい。
「ふぅ、毎日毎日どうにかならないのか。」
患者様が表情を曇らせてため息まじりにボソッと呟いた。
え?毎日なの?
隣に一体何があるの?
「失礼します。」
私は恐る恐る、叫び声の聞こえた隣の部屋へ入る。
「あんた、いい加減にしなさいっ!迷惑でしょ。」
少しふっくらした中年の女性が、ベッドの男性の頭を軽く叩く仕草をしていた。
ベッドに横になっていた人は中年の男性。
身体が大きい…
両手には鍋つかみみたいな手袋をしていた。
そして沢山の点滴が吊るされている。
視線は合わず、落ち着きなくキョロキョロしてた。
手袋はミトン手袋といって身体拘束の一つ。
掴むところが固くなってるから、物を掴んだり出来なくなっているんだ。
「ごめんなさいねぇ…若い女の子にみっともない所見せちゃってさ。」
女性が私の方へ向き、困った顔して謝る。