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✛2.贈り物✛①

✛贈り物✛

 

12月24日

 

パソコンの画面な表示された文字を見つめたまま私は動けなくなった。

 

「どうかしたの?」

「…あ、すいません。何でもありません」

 

 

先輩の声に動揺しちゃって私は思わずキーボードに手が触れる。

[ピーーーー…]

 

エラー音が鳴り響き視線が一斉に私に集まる。

 

 

[~~♪]

 

 

そのときタイミングよくナースコールが流れてきた。

 

 

「お伺いしますね。」

 

 

私は慌てナースステーションから飛び出した。

 

 

あぅ
…まいったなぁ
変に思われたんだろうなぁ。

 

動揺しちゃったのには実は理由があるんだ。

私が小学生になったばかりの時だった。
お父さんとお母さんは離婚した。

 

 

お父さんはお酒が大好きだった。
だけどお酒を飲むと人が変わる。

 

飲酒運転なんかしちゃって。
何度か自損事故をおこしてはお母さんが身代わりになっていた。
警察にはお母さんが運転してた事にしてた。

 

 

酒に溺れて働かないから借金が膨らんで、いつしか消費者金融からの電話が鳴りっぱなしになっていた。
玄関の戸をを叩く音にいつもビクビクしてた。

 

 

お金なくても酒はやめれず
昼間からお酒の匂いがぷんぷんさせてたお父さんの姿。
真っ赤な顔をして泣いたり笑ったり怒ったりしてた…

 

暴力をふるう事なんかも再々あった。

 

いつからか私は家にいる時は布団を頭から被り寝たふりをしてた。

耳を塞いでもお父さんの怒鳴る声とお母さんの泣く声が耳に入ってきた。

いつもお母さんは泣いていた。

それが私の中のお父さんの記憶だった。

 

 

 

お母さんと私が家から出て行く日、お父さんは最後まで後ろを向いたままだった。

台所にはビールの瓶が足元に沢山転がってた。

二人とも背中を向けたままで、一言も交わすこともなかったんだ。

 

 

それが覚えてる最後のお父さんの姿。

小かった私にとってはとても大きかったはずお父さんが頼りなく小さく小さく見えたんだ。

 

 

私たちは静かに家を出た。

私はお父さんの愛情というものは殆ど覚えてない。
別れた日からお父さんとは会ってないし、別に会いたいとは思わなかったし。

 

 

それが原因とは思わないんだけど私は結婚に理想はないんだ。

お母さんは私を育てるために、何より生活をしていくために、一生懸命仕事をした。

私には愚痴も言わないで笑顔でいた。

…もしかしたら看護師を仕事として選択したのは一人で生きていけるようにというのがあったかのな。

 

 

患者さんのとこへ向かう途中だった、医療クラークに案内されてた一人の中年男性とすれ違った。

 

 

ヨレヨレのシャツに青いジャージ姿。
無精ひげが生え、冴えない表情、お酒臭い息。
全身真っ黄色。指先は震えて、お腹がパンパンに膨らんで…
身体もずっとお風呂入ってないような臭い、

 

 

目が合った。
でも、その中年の男性は私に気にもせず、ボーっとした表情でそのまま病室に案内されてた。

 

私は避けるように患者さんのところに向かった。

 

 

用事が終わりナースステーションに戻った。
電子カルテを開いて患者情報に目を通す。

 

両親死亡。肉親なし。
現在一人暮らし。

 

ずっとアルコールが止めれなかった。
アルコール中毒になって精神科に入院歴があった。
何度か警察のお世話にもなってるみたい。

お母さんが一度だけお父さんの事を話してくれた時の言葉を思い出した。

 

「あの人は弱い人だっからお酒に逃げ出した。でもね、結婚するまでは優しい人だったの…
あなたが生まれた時は嫌な顔一つしないで家事も育児も手伝ってくれたのよ。」

 

意思の弱いお父さんはアルコールのせいでアルコール性肝炎になった。
医者からも再三お酒を止められてたのに

…でも結局止めれなくって何度も入退院を繰り返していたんだ。

 

 

[診断名:肝不全。治療方針:緩和ケア]

 

私は無機質に表示された文字に固まった。

無意識に震える指先、ゆっくりキーボードを叩く。

 

 

検査データ
…肝機能の数値がもの凄く悪い。
ビリルビン、腎機能も…

【肝硬変からの肝臓癌】

 

 

久しぶりに再開したお父さん。
もう手遅れの状態だった。

肝臓は症状が出にくい。

 

でも、だから、病気に気づきにくい。
痛みや吐き気が強かったらアルコールだって止めたんだろうけど…

 

 

―その日、私はお父さんの部屋には近づかなかった。

特に会う理由もないし、どんな顔すればいいのかもわかんない。

そして時間が過ぎていった。

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