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2/1(木)日勤③

「お迎えが来たのでお願いします。」

 

 

しばらくして家族の方が荷物を抱え、最後の挨拶に来た。

荷物の中に混じったパズルの入った額縁。

中谷さんはパズルを組み立てるのが好きで、入院中すごい数になっていた。

その中の一つは作りかけのものがあった。

中谷さんが大好きだった海の風景。

毎日、楽しそうに作っていた姿が思い浮かぶ…

空が欠けたピース…
未完成なままの思いが取り残されていた。

 

 

「皆さん、本当にお世話になりました。」

 

 

家族が深く…深く頭を下げる。

病院の出口までスタッフ、ドクターで中谷さんの退院を見送る。

 

 

「それでは責任もって運ばさしていただきます。」

 

 

葬儀会社の方が挨拶をし、中谷さんの台車が車に乗り込んだ。

もう一度、家族の方がこちらに深く頭を下げた。

そして車が走り出した。

スタッフ一同、車が見えなくなるまで頭を下げてお見送りをした。

 

 

《~♪》

 

 

ナースステーションに戻ると、鳴り響くコール。

 

 

「はい、どうされましたか?」

 

 

312号室の藤田さん。
私の今日の担当患者様だった。

47歳の女性で、抗がん剤による化学療法を行っていた。

 

 

『……』

 

 

何も返答が返ってこなかった。

 

 

「今からお伺いしますね。お待ちください。」

 

 

どうしたんだろ?

 

 

「すいません、藤田さんのところへ行ってきます。」

 

 

先輩看護師に声をかけ312号室へ向かった。

何かあったのかな?

廊下を走ることはできないので足早に病室に向かう。

 

 

「失礼します…」

 

 

部屋に入ると藤田さんの表情が強張っていた。

 

 

「どうしま…」
「昼から髪の毛洗ってくれるって言ってたのに、どうなってるの!」

 

 

あ!
中谷さんの事で頭がいっぱいになって忘れてた。

 

 

「ずっと楽しみに待っていたのにっ!」

「すいませんっ。」

 

 

中谷さんの事で忙しかったとしても、藤田さんには関係ないこと。

言い訳にもならない…

 

 

「もういいわよ。」

 

 

藤田さんは横へ向いてしまった。

緊張の糸がきれて、疲労感に包まれた。

 

 

はぁ…

やりきれなさで頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。

死に対し圧倒的に無力な存在。

だったら、何のために私たちは居るのだろう…

看護って何のためにあるんだろ…

何のために私はがんばるんだろ…

 

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