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2/1(木)日勤②

 

 

ドクターが聴診器で、呼吸の確認、心臓の音の確認をした。

ペンライトを目にあてて、瞳孔の確認をする。

私は両手を前で重ねて、その仕草を見守る事しかできない。

 

 

何度となく見てきた光景。

ドクターがもう一度、モニターを確認した。

表示されてるのは真っ直ぐな一本の線。

静寂に包まれた中、ドクターは腕時計を確認すると

 

 

「14時32分死亡確認しました。」

 

 

深く頭を下げた。
看護師も、その言葉に合わせて頭を下げた。

 

 

「どうなってるんですかっ!!何でっ!?」

 

 

家族は到着するなり興奮してまくし立てた。

あまりにも突然のことで、当然といえば当然の反応だった。

先生が到着した後,除細動器の使用にも昇圧剤にも反応を示すことはなく…

 

中谷さんの止まった心臓が再び動きだすことはなかった。

私は頭が混乱していた。

 

 

「何で死んだんですか?あんなに元気だったのに!」

 

 

家族の問いかけにも何も言葉が出てこず…

家族からすれば、突然身内が亡くなったことに対して不信感が強かったのだろう…

 

 

「皆さん、お別れが済みましたら最後に綺麗にさしていただきますのでお声かけください…」

 

 

先輩看護師が家族に声をかけ頭を下げた。

 

 

「吉岡さん、エンゼルセット準備して。」

 

 

エンゼルセット…

患者様が亡くなった時に使用する道具箱。

化粧品、クシ、ガーゼ、針、糸、割りばし、綿、爪切り…いろいろなものが入っている。

 

 

《ジャー…》

 

バケツにお湯を入れ、消毒薬を入れた。

…私達にできる最後の看護。

 

 

「失礼します。」

 

 

まずは冷たくなった中谷さんの身体を拭いてキレイにしていく。

さっきまで生きていた中谷さん、まるで眠っているだけのようだたった。

 

 

「中谷さん…しんどかったのかな…お疲れ様でした…」

 

 

ヒゲを剃って、髪の毛をクシをとかし整える。

とにかく傷つけないように細心の注意をはらいながら。

先輩がお尻、耳、鼻、口に綿を詰めていく。

これは排泄物が出てこないようにする栓になるんだ。

一通り終わると、家族から預かった着物にお着替え。

入れ歯をはめて、少し化粧をした後に瞼を閉じてもらい両手を胸の前で組んでもらった。

うん、見た目もキレイになったよ。

最後だもんね。
キレイな姿で家に帰ろうね。

一つ一つ気持ちを込めて丁寧に行っていく。

 

 

「ちょっと窮屈だけど我慢してくださいね…」

 

 

手首にゴムバンドを巻いて固定し、同じもので口が開かないように頭から顎にかけて固定する。

最後に白い布を顔にかけて私達は手を合わせた。

さよなら…

天国で幸せに暮らしてください…

 

 

「終わりました。」

 

 

病室を出て、家族に挨拶をする。

 

 

「どうもありがとうございました。」

 

 

少し時間が経ったことで、多少落ち着きを取り戻したのか…さっきとは雰囲気が変わっていた。

それでも目は真っ赤で、か細い声から悲しみが伝わり私の胸をギュッと締め付ける。

 

 

「この度は…」
「あ、わざわざすいません…」

 

 

最後の処置が終わる頃、駆けつけた家族の数が増えていた。

泣き崩れてる人。
メモを開いて書き込んでいる人。
電話している人。

人それぞれ反応は違った。

 

 

「失礼します。」

「あ…あの、すいませんが葬儀屋さんを教えてもらいたいんですが…」

 

 

その場をそっと離れようとした時、後ろから呼び止められた。

 

 

「それが特定の葬儀会社を紹介する事は出来ないきまりになってるんです…すいません。」

 

 

私は頭を下げ、代わりに電話帳を持ってきてお渡しした。

その場に居ずらく、落ち着かなかった。

何か後ろめたさがあったのか…まともに顔を見て話す事ができない。

 

 

「失礼します。」

 

 

そそくさとナースステーションに戻り中谷さんの退院手続きに入る。

経過、時間、使用薬剤、処置などをカルテに入力していく。

干渉に浸る暇はなく、しないといけない事が沢山だった。

 

 

「はいよ。死亡診断書できたよ。」

 

 

ドクターから手渡された1枚の紙。

これが中谷さんが亡くなった事を証明するもの。

なんか呆気ないもんだね…

 

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