3月24日土曜日(晴れ)

…眩しい。

陽射しが顔にあたる。

もう朝か。

 

 

呼吸器の音が無くなっただけでも、すごく静かに感じる。

…体がだるい。

やっぱりスッキリは眠れないし、スッキリは目が覚めない。

 

 

よいしょ。

重く、怠い身体を持ち上げた。

 

 

つぅ…

腹にチクりと痛みがはしった。

痛みを感じた場所を確認してみる。

 

 

手に固い何か触れる。

ぴょこんと管が飛び出していた。

思い出した…

 

 

喉だけじゃなくて、お腹からも管が生えたんだった。

 

 

改めて実感する。
もう自分の身体じゃない。

天井を見つめていた。
見飽きた風景。

 

 

何も変わらないモノ…
羨ましいな…

私は変わった。

 
ふと思い出す。

テレビで放送されていた病気と闘っていた男の人。

 

 

体が管だらけで…
最後までベットの上で絵を描いてた。

動けなくなる最後の日まで。

 

 

他人事みたいにみていた。

今の私ならテレビとか来てくれるのかな。
闘病生活を取り上げてもらって応援してもらえるのかな…

 

 

…何か寝てる時間が多いと馬鹿な事考えてる。

きっとテレビや雑誌に取り上げられるのなんて、本当にごく一部の人。

その陰で病気に苦しんでる人は、数え切れないくらいくらい沢山いるんだ。

 

 

 

《カタ…》

音のした方に視線を送ると人がいた。

親父。

 

 

手を軽く挙げると無言でソファーに腰掛ける。

何も喋らず静かに座ってるだけ。

 

 

 

 

 

沈黙が部屋を包み込んだ。

ふと、頭に何かが触れる。
そして聞こえてきた小さな声。

 

「よく頑張ったな。」

 

頭に触れてたのは親父の手だった。

でっかいシワだらけの手で私の頭をクシャクシャっと撫でる。

そして親父は部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

我慢していた感情が…

 

涙がポロポロ溢れてきた。

 

悲しくて
苦しくて
悔しくて
不安で

 

 

抑えてたものが沢山の気持ちが…

子供みたいに声を振り絞り泣きじゃくった。

出ない声でいつまでも…

 

 

次へ

前へ