3才の誕生日の記念写真。私はナースキャップに聴診器、注射を持っていた。
「あら、懐かしいわね。」
私の大きい声に驚いてやってきたお母さんが写真を見て目を細めた。
「お父さんの誕生日プレゼント。すごく喜んでたのよね。寝るときも離さなくって大変だったのよ。」
思い出したみたいでクスクス笑うお母さん。
…覚えてる。
看護婦さんになるんだっていつも言ってたよ。
お父さんが病気になったら私が看てあげるって約束した。
お父さんの誕生日プレゼントが看護婦に憧れるようになったきっかけだったんだね。
「お母さん、おじいちゃん病院で何かあったの?」
病室でのお父さんのの言葉を思い出した。
ちょっと困った表情を見せるお母さん。
ゆっくりアルバムをめくる。
赤ちゃんの私をおんぶしてくれてるおじいちゃんの写真。
「優花が5才の時だったの。おじいちゃん亡くなったのは…」
覚えてるよ。
幼稚園のとき、おじいちゃんがいなくなったんだ。
それは突然で。
死ぬって事があんまり理解できない年齢。
「もともと肺が弱かってね、病院に通院してた。調子悪くなった時があって救急車を呼んだの。」
「…それでね」
思い出したみたいで言葉に詰まるお母さん。
「…息がしんどくてゼェーゼェー息をしていたおじいちゃんに病院は簡単な検査をしただけで何もしてくれなかった。」
お母さんは小さな声でゆっくり話してくれた。
おじいちゃんが亡くなった訳を…
‐診察してくれたドクターは眠そうに目を擦り機嫌悪く
「かかりつけの病院はありますか?明日そちらに行ってください。」
って言うと姿を消した…
お父さんは一生懸命、頭を下げて頼み込んだらしい。
なんとか入院させてもらったけど翌日帰るって決められて、おじいちゃんがつらそうだったからナースコールで看護師さんを呼んだら
「先生の指示がないので何もできません。」
そう答えて苦しそうなおじいちゃんをほったらかし何もしてくれなかった…
朝が来るとご飯さえも出ないまま紹介状渡され退院。
それが原因かはわからないケドおじいちゃんは1週間後に呼吸不全を起こして亡くなった。‐
「おじいちゃんを助けれなかった事をお父さんは悔しかったみたいね。それからお酒を飲むようになったの。」
そう言いながらお母さんはいそいそと家事に戻った。その先は思い出したくないみたいに。
お父さんはその時に全てをうしなったんだね。
家族も
命さえも
私は次の日、ロッカーに入れてた辞表を破った。
お父さんの最期の言葉を胸に…
看護師を続けるために…