…脳。
…腸。
…肺。
血液のついた内臓が次々と私に渡される。
「そこ切って。」
指示どおりに恐る恐るハサミで切る。
目の前に横たわっているのは冷たくなった人間だった。
私の知っている人。
私は、遺体から内臓を取り出していた。
OP室の実習でもないのに内臓をバラバラに切り取り目の前に並べる。
私の横に立ってる先生が臓器の一つ一つをみんなに説明する。
「ここにあるのが腎臓、こっちが脾臓…」
私は喉のとこに酸っぱいものがぐっとこみ上げてきた…
先生は慣れた手つきで切った身体をなるべく傷つけないように皮をめくった。
生きてる時の姿を知ってる人の身体だから余計にキツイ。
もう嫌だよ。
逃げ出したい…
私にはこの仕事はできないよ。
私は耐え切れずしゃがみこんでしまった。
一年生の時に解剖実習があるんだけど。
それは事前にしっかり解剖の勉強をして大学病院にいく。
無断でじゃなくって遺族のかたにきちんと説明して了承を得るんだ。
医大生が解剖を学ぶためのものを一緒に学ばせてもらう。
遺体には最大限の敬意をはらい、玩具にしたり笑ったりは絶対にしない。
当たり前の事だけど大切な事。
ただ、中には気分が悪くなる生徒もいる。
写真や絵ぐらいでしか見る機会のないものが目の前にあると…
仕方ないと思う。
そのとき、私はまだ平気だった。
だけど今日のは…
今日解剖したのは昨日まで元気だった患者さん。
私は話をしたり体を拭かしてもらったりお世話さしてもらったんだ。
74歳の可愛いお爺ちゃんだった。
話しかけるとシワだらけの顔がもっとクシャクシャになる。
「有り難う。」
が、口癖でいつもニコニコしてた。
今日の朝、実習にくると名札が病室から外されていたから不思議に思ってた。
ニコニコ笑った顔はそこにはなく。
冷たくなったお爺ちゃんが横になっていた。
知った人が亡くなるだけでも辛い事なのに…
死因を調べるため、家人に了承を得て解剖となり学生は勉強になるということで呼ばれた。
無断でなく、きちんと了承得たうえのこと。
「えっと…君、手伝ってくれるかな?」
何故か私がお手伝いに指名された。
着替えをして先生の横に立った私。
他の同級生は私の横か、あるいは窓越しに見てた。