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〃精神科⑥〃



「優花ぁ、昨…」
「ああぁ~ストップ、みなまで言わないでよ~」



朝、顔合わすなり加奈が話しかけてきた。
昨日のカラオケのことに決まってる…

私は慌てて両手で耳を抑えた。



うぅ、恥ずかしいよぉ…



「でも、精神科実習って怖いと思ってたけど意外に楽しいね♪」


加奈が嬉しそうに話す。


うぅ、そんなことないよ。
私は不安いっぱいだよ…


「ちょっと、痛いってばぁ。」


足取りの重たい私の手を、加奈は気にせず引っ張る。



「早く早く。」


「はいはい。ちょと待っててば。」


そうして、精神科実習二日目が始まった。




朝の看護師さんの申し送り。



気になる内容があった。

ラーシャさんが夜、全然眠れてないらしい。
睡眠薬を二回追加しても落ち着かなかったって。




精神科の患者様はほとんどの人が睡眠薬を内服している。

精神の安定という事を考えると、夜はしっかり睡眠とれる事が大切らしい。





「はぁー…しっかし毎年、季節の変わり目に調子悪くなるな。」

「今日は注意ですね。」


看護師さんの会話。

手に持った筆記用具で頭をポリポリと掻いてる。



看護師さんの言うことが、どうしてもピンと来なかった。


ラーシャさんが一晩眠れなかっただけなんだよね?


そんなにめんどうなことなのかな?






…だけど、その考えはすぐに払拭されることになったんだ。

 



「おはようございます。」



日課の朝のラジオ体操の時間。

宮川さんもラーシャさんも出てきていた。


あっ。


…ラーシャさんの顔つきが昨日と全然違う。

歩き方も落ち着きがない。
キョロキョロと周りを気にしてた。


宮川さんは、ラーシャさんの側から離れてる。

何か嫌な予感がするよ…


ラーシャさんが私に気づくと駆け寄ってきた。


「ねぇ優花ちゃん、電波が飛んデルよ。気をつけて。見張られテル。」

「電波?」


早口に話しかけてきたラーシャさん。

「実は私は天皇の血筋なノ。…ほら神の声が聞こえエるでしょ?神様が私が狙われテルって教えてくレてるわ。」



うううぅ…

顔つきが険しい。
決して冗談を言っている雰囲気ではない。


思わず私はこめかみを抑えてた。

 




「あ、あははは。ラーシャさん、電波なんてないですよ。狙われてないから大丈夫です。」



えっ?

ラーシャさんが私に顔を突き出した。
思わず後退りをした。


「何?なんで嘘言うの?さてはあなたはスパイねっ!!」



両手を腰にあてて、早口でまくし立てる。
顔つきが更に険しくなる。



やだ…
こ…怖いっ



「いや、ラーシャさ…」

「何が狙い?みんなで私をどうするつもりなの?!」



きゃあっ!

私は思わず座り込んだ。


そのときだった、突然殴りかかってこようとしたラーシャさんを看護師さんが数人で抑えつけた。



「あーーーーっ!!殺されるぅーーーだれかあああ!!」




グランド中に大きな声が響き渡る。

ラーシャさんは看護師さんに注射されると、そのまま連れていかれてしまった。



私は震えが止まらなかった…

 

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