翌日、実習の日。
「おはようございます。」
「あら、おはよう。優花ちゃん。」
河田さんは、表情も柔らかく元の優しいおばあちゃんに戻っていた。
「昨日のこと、何も覚えてないのよ。ねぇ。」
苦笑いしたお嫁さんの顔は疲れていた。
一晩中、付き添って見ていたんだ…
「お昼の間、私が居ますから休んでください。」
お嫁さんの方が病人のようで、心配でたまらず声をかけてしまった。
「ありがとうね。でも大丈夫よ。」
「…そうですか。無理しないでくださいね。」
学生の立場で、それ以上は何も言うことができなかった。
よしっ!
とにかく、私にできることをしよう!
「へぇー、それからどうなったんですか?」
「それがねぇ…」
時間を見つけては、ベッドの側に行きお話をするようにした。
だって、それが昼寝を防いで会話することで少しでも精神活動になるんだ。
「気持ちいいですか?」
爪を切らしてもらったり、足浴もさしてもらったり
私は会話だけでなく、ケアを通じて河田さんとの関係を築いていった。
その甲斐あってか、私が顔みせると
「もう、優花ちゃん。待ってたんだよ。」
「すいません。昨日はテストだったんですよぉ。」
ニコニコして喜んでくれるようになったんだ。
「ちょっと、あれ取ってよ。」
「はーい。」
気軽に頼ってくれるまでになっていた。
「優花ちゃんは、いい子ねぇ。うちの息子の嫁に来ない?」
お嫁さんが笑いながら話しかけてきた。
いつの間にか、お嫁さんとも自然に仲良くなってた。
「いい年してるのに結婚しなくてねぇ…ほら、これが写真なんだけど…」
そういうと、カバンから携帯電話を取りだして私に見せようとしてくる。
「あ、その…そうだ。河田さん、早く家に帰れるといいですね。」
話しを反らそうと慌てて退院の言葉を口にした時だった。
「…。」
お嫁さんの表情が急に暗くなったんだ。
「ええ、そうね…」
何でかな?
気まずい雰囲気になっちゃって、私は言葉を出せなくなったんだ。
「あら、どうかしたの?」
河田さんだけは、いつもと変わらない。
私達の顔を見てニコニコしてた。