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3月27日火曜日(晴れところにより雨)

《シュー》

ごほっ!
いたたたた…

 

 

目の前の吸引チューブを思わず手で払いのけた。

 

 

小林さん、頑張りましょう。」

優花ちゃんが手を止めて困った顔をしている。

 

 

…ごめんなさい

わかっていても、つい無意識に手で払ってしまったり、逃げてしまう。

吸引は結構しんどい。
痛いし、苦しい…
咳も出てしまうし…

 

 

でも、その後に呼吸は楽になるんだ。

よし、我慢我慢。

 

 

 

「大丈夫です?」

うん
痰がつまると息が出来なくなるから、そっちの方が苦しくてたまらない。

だから、お願いします。

 

 

 

「いきますよ。」

あれ?
優花ちゃん髪切ったんだね。
短かった髪の毛がもっと短かくなってる。

 

 

 

「先生お願いします。」

後ろに立っていた佐々岡先生が手袋をして前に出る。

「では、カニューレ交換しますよ。」

 

 

ん?
何でそんなに嬉しそうな顔してるの?

あれ?
優花ちゃんが先生に手渡したカニューレ…
何か、いつものと違う気がするけど?

 

 

 

えへへ♪」

いたずらっぽく笑う優花ちゃん。

 

 

「いきますよ。」

佐々岡先生が、手渡されたカニューレを私の喉に差し込む。

少しだけ痛かったけどスムーズに入った。

 

 

「どうですか?」

佐々岡先生が私の顔を覗き込んだ。

 

 

大丈夫。
痛くないし、息も苦しくない。

 

 

「「はい、大丈夫です。」」

 

 

あれ?
何かいつもと違う。

違和感が…

 

優花ちゃんが嬉しそうにニコニコしていた。
右手を耳にあててをあてて聞き返す。

 

 

「え?何て言ったんですか?」

何?
私、何か変な事を言ったかな?

 

 

 

「「いや、だから何ともないですよ。」」

何?

優花ちゃんが口パクをしている。

 

 

 

 

あ!!

もしかして、今喋れた…

 

 

 

「小林さん、スピーチカニューレにしてみました。いかがですか?」

佐々岡先生が説明してくれてようやく状況が理解できた。

 

 

変な感じだ。

しゃべれない事が当たり前だったから、意識すると何かピンとこない。

 

 

私はゆっくり深呼吸した。

 

 

「「先生、優花ちゃん。いつも本当に有り難うございます。」」

 

 

しゃがれたガラガラ声…
自分の声ではないけど…
月並みな言葉だけど…

自分の言葉で、ようやく伝えれた。

先生と優花ちゃんは黙って嬉しそうに微笑んでくれていた。

 

 

 

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