「小林さん、おはよーございます。」
優花ちゃん、おはよ。
今日も元気だね。
優花ちゃんが私の顔を見て不思議そうな顔をする。
「今日は笑顔ですね。何かいいことあったんですか?」
優花ちゃんも笑顔を返してくれた。
[なにも、ないよ]
いい事は特にはないんだ。
私は笑うだけど、事にしたんだ。
気持ちまでは病気に負けたくないからね。
笑う門には福来たるって言うしさ。
私が笑う事で周りの雰囲気も変わった気がするんだ。
「…変な小林さん。」
やっぱり、今まであんまり笑ってなかったんだな。
急に変わった私に優花ちゃんは不思議そうに首を傾けた。
「えへへ。」
優花ちゃんはイタズラっぽく笑ってみせた。
「小林さん、今からお風呂入りましょう。」
はーい。
…?
え???
突然の事に思わず、きょとんとしてしまった。
「先生からお風呂の許可もらったんですよ。」
優花ちゃんがピースサインを見せた。
毎日温かいタオルで、体を拭いてもらっていたけど…
お風呂は1ヶ月以上入ってない…
本当にお風呂に入っていいの?
お風呂好きというわけではないけど、流石に1ヶ月開くと入りたい。
「私が一緒に入りますからね。」
…
え?
その言葉に再び、きょとんとしてしまった。
…マヂですか?
お風呂に入る前から冷や汗でびっしょり。
うぅ、恥ずかしい…
部屋で裸になりストレッチャーに移る。
陽子が着替えとタオル、シャンプーを用意する。
ワインのシャンプー。
陽子のお気に入り。
容器もワインの形で少し高いけどいい香りがする。
「行きますね。」
介護士さんが声かけてくれるとストレッチャーが動き出した。
廊下を移動。
ポータブルの呼吸器も付いてくる。
お風呂に入ると酸素を消費するから付けたまま。
「ちょっと、お待ちくださいね。」
特殊浴槽の前、
私のように担架にのった患者さんが他にもお風呂の順番を待っていた。
認知症があるのか、落ち着かずゴソゴソしている方や、片方の足が無い方など…様々だった。
しばらく順番が来るのを待った。
「お願いします。」
「はい、入りますよ。」
「誰か、こっち。」
患者が順番に入れ替わりドタドタしている。
「じゃあ、小林さん。行きますよ。」
いよいよ順番がきた。
中に入るとTシャツにジャージ、長靴にエプロンを着けたの看護師さん、介護さんが数人いた。
みんな汗びっしょりで介助している。
「小林さん、いらっしゃい。」
タオルで汗を拭いながら優花ちゃんが笑顔で話しかけてきた。
「身体が苦しくなったら、我慢しないで言ってくださいね。」
はい。
「じゃあ、隣のストレッチャーに移動しますよ。」
数名で介助浴用のベッドに移してくれる。
「1、2の3。」
重たいだろうな…
女の子がこの移動するだけで重労働だよ。
検査や入院の度に患者さんを担ぐ看護師さん。
体力も必要なんだなぁ。
「湯加減はどうですか?」
ゆっくりシャワーをかけてくれた。
…
「熱くないですか?」
「どこか痒いところないですか?」
さすがに、まだ湯船にはつかれない。
みんなに囲まれお湯をかけられ頭から身体から洗ってくれた。
客観的に考えると…ストレッチャーの上に裸で寝かされ、体を擦られてる。
…
この状況には今だに慣れない。
やっぱり恥ずかしい。
やっぱり情けない。
工事の流れ作業みたいだ。
次々患者が来る。
裸にされ囲まれ洗われ…
入れ代わり立ち代わり。
物みたいな感じで…
うーん…
何かイメージと違う。
お風呂って感じじゃない。
しばらくすると、そんな考えは消えた。
「早く、元気になりましょうね。」
汗だらけになって一生懸命、体を洗ってくれてる優花ちゃん。
楽なはずじゃないのに笑顔を見せてくれている。
蒸し暑い中、次々と患者さんはくるし、身体の移動もある。
こんな事まで、看護師さんや介護士さんは頑張ってくれてたんだ。
すごい…
元気になるときは一緒に喜んでくれる。
辛いときは一生懸命心配してくれる。
いつもそばにいてくれる。
ありがとう。
ゆっくり目を閉じた。
余計なことは考えない事にしよう。
ゆっくり久々のお風呂を満喫させてもらおう。
みんなに感謝して…