4月25日水曜日(晴れ)
『おっはよー。』
『さあ、リハビリ頑張りましょうね。』
看護師さんの声が廊下から聞こえてくる。
みんな、いつもより明るい声。
何かいいことでもあったのかな?
『失礼します。処置しますね。』
《ガラガラガラ…》
床擦れの処置。
少しは治ってるのかな?
…
いて。
いててっ!
『ねえねえ、給料日だしどこか食べにいかない?』
『何、何?おごりなの?』
ちょっ…雑談しながらだから乱暴になってるよ。
機嫌がいい理由はわかったから、もう少し丁寧にしてください…
『はい、おしまーい。』
《ガラガラガラ…バタン》
ったく。
いい加減だなぁ。
…給料日か。
この日のために仕事頑張ってるようなもんだもんな。
やっぱり嬉しいよなぁ。
毎日、毎日、残業残業でクタクタになり帰宅。
頑張っても頑張っても上司から怒られ、時には理不尽な事でも頭を下げ謝って。
仕事にやりがいや夢があるわけでもなかった。
でも、家族のため
生きるため
歯を食いしばって働いたなぁ。
その代償の給料日。
家に帰ると綾と陽子がニコニコして玄関で待ってくれてるんだ。
綾なんて、いつもいっちょ前にオシャレしてみせる。
髪をくくって、お気に入りのアニメのキャラクターのワンピースを着ていた。
バッグはママのお下がりを肩にかけてみせる。
みんなで外食。
だいたいはファミリーレストランか回転寿司だけど、みんなで美味いものを食べるんだ。
私は家族の笑顔みて、また一ヶ月仕事を頑張ろうと気合いを入れてた。
…私が居ないからって二人で御馳走食べに行ったりしてないだろうか?
ったく。
はぁ…
何か美味しいもの食べたいなぁ。
入院してから、まともな物何も口にしてない。
白いご飯食べたい…
…あれ?
ちょっと待てよ。
私は今、入院している。
つまり私は今、当然働いてない。
ということは給料なんて入るはずがない。
…じゃあ生活はどうなってるんだ?
治療代だって
個室代や診察代、点滴代に検査代…高いんじゃないのか?
…陽子は一度も私にお金の話しをしてない。
だけど確か貯金なんてあまりなかったはずだし…
…
陽子は一人で苦しんでるんじゃないのか?
私に余計な負担かけないため一人抱えこんで…
私は自分の事ばかりで何も気付いてなかった。
いや、わざと目を逸らしていたのか…
私が、ただ生きてるだけでも当然お金がかかる。
生きてる事自体が…負担になってるということ。
それなのに無責任に生きたい、生きたいって…
なんて馬鹿な奴なんだ…
…
《プシュープシュー》
今さらに気づいたこと。
ただ単に生きてるだけで介護がいるなら存在自体が邪魔になる。
だったらもし私が死んでしまったら?
給料が入らないから生活ができない?
《プシュープシュー》
私は
生きた方がいいの?
死んだ方がいいの?
《プシュープシュー》
答えは聞きたくない…
生きればいいという簡単なものではない。
働けず、お世話が必要な身体になって負担になるだけでも私は生きてていいの?
死にたくないという願いは…ただの私の我が儘なのか…
それでも生きててダメなんですか…?
こんな私にも明日という日がくる。
必ずくるモノとは限らない明日。
生きてる限り、それだけは平等に与えられる。
そして明日は私にとって…