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4月20日金曜日(晴れ後曇りところにより雨)

4月20日金曜日(晴れ後曇りところにより雨)

…おい、よ
《バタン》

 

《パタパタパタ…》

 

 

 

 

…何だよ。

久しぶりに来たのにもう少しぐらいゆっくりすればいいのに。

洗濯物を取りにだけ。

 

 

ったく。陽子は…ん?

《プシュープシュー》

 

 

 

 

…ふと感じた違和感。

 

 

…そういえば入院してからずっと陽子と呼んでいる。

だけど、この数年は名前で呼ぶ事なんてなかった。

 

いつからか陽子と呼ばなくなっていた。

 

 

 

 

陽子でなく「ママ」とか「お前」とか呼ぶようになった。

私も「パパ」とか「あなた」とか呼ばれるようになっていた。

 

 

 

何でだろ?
名前で呼ばなくなったのは…

意識した途端に何か照れ臭くなった。




…思い出した。


最後に陽子と呼んだ日。




綾が産まれたばかりの時に私が冒した消せない失敗。









その頃、私は仕事が上手くいってなかった。

失敗を繰り返し、毎日のように上司から怒鳴られて…

もう仕事へ行くのが憂鬱で憂鬱で仕方なかった。




仕事が終わり家に帰るといつも綾が居た。

それまでの生活は完全に変わった。

全てが綾が中心の生活。




初めての子供。
もちろん可愛かった。

ただ、可愛いだけで子育てなんてできない。




親は最初から親なわけはなく子供ができた時、突然にパパとママになる。

もちろん全てが初めての経験。






少しでも他の子より成長が遅れてたり、病気になったりしたらそれだけで不安になる。




綾がご飯食べず、体重が増えず役場の人からは気にしている事を平気で注意され…



言葉の遅れ
発育の遅れ


そちらに言われなくても考えてる。
悩んでる。


テレビや本で見るような楽しい家庭なんてそこにはなかった。


…子供は時間関係なくミルクにオムツにと泣き叫ぶ。
もちろん、こちらの状況に気遣う事なんてない。


疲れた心と身体にはきつかった。


毎日が精一杯で…

次第に朝、目が覚めても身体が動かない毎日。
寝てる間の知らないうちに涙がこぼれていた。



私だけではなく陽子も子育ての疲れからノイローゼ気味になっていたんだ。




綾が生まれた日から、陽子と私はお互いをパパとママと呼ぶようになった。


それはどちらが始めたものでなく自然に変化した。




この後、私がした失敗。


そんなのは単に私が弱い人間だっただけで…
仕事や綾のせいというのは結局、言い訳でしかない。







それから間もなくだった。

自然と家から足が遠ざかり、私はギャンブルに逃げていた。


初めは気分転換だと考え軽い気持ちで始めた。


だけど、負けるとすぐムキになってしまい後先考えれなくなっていた。



でも、没頭しているその瞬間だけはなにもかも忘れる事ができていたんだ。



徐々にに額が増える。

お小遣が足りなくなって、軽い気持ちでした消費者金融での借金。


1社、2社と増え自転車操業がはじまり…気がつくとどうしようもない状況に立っていた。


陽子に言えるはずなく…

私は追い込まれていく。




知ってる限りの消費者金融にあたり当然のように断られる。




すでにブラックリストとかいうやつに入ってたのだろう。



会社や家にも催促の電話が鳴る。
ごまかせないところまできていた。




みぞおちの所がキリキリ痛む。
食欲がわかない。
食べたら吐く。



《ピーポーピーポー…》



ある日、私は血を吐いた。

胃潰瘍で胃に穴が空き腹膜炎になる寸前だった。


突然の入院。

あの時も家族に心配と迷惑をかけた。



数日の入院の後、退院した私。
診断書をもらい、しばらくの自宅安静を指示される。



久しぶりの我が家。


そこに待っていたものは…




「…」



陽子が一枚のハガキを差し出した。



あの時の表情は忘れる事はないだろう…



ハガキは借金の請求。
封が閉じられていたのを開けていた。








やけに静かだった。
綾も赤ん坊のくせに空気を読んだのか起きているのに泣いたりせず…



何も言葉が出るはずなく、ただ頭を下げた。





逃げ出す事ができれば楽なのに
逃げ出す事ができるハズなんてなく



…私のした事は家族に負の財産を背負わせた。


…私は家族を裏切った。




陽子の目は真っ赤に腫れていた。


どれだけ泣いたのだろう。




それでも




そんな私を必要だと言ってくれた。







離婚







その一言も口にせず。




隣で私を支えてくれた。




激しく後悔し落ち込んでた私を責める事なく…






その事件の後…
私は陽子の事を名前で呼ばなくなった。




陽子は私と結構して幸せだったのだろうか…



私は…



《プシュープシュー》







…ありがとうな。
…大丈夫だよ。



うん、大丈夫だ。



涙を流す事もできないし…
もう、涙も枯れてしまったよ…





私はやがて何かを感じる事さえなくなるのだろう…





《プシュープシュー》






今更、全ての事がが手遅れなんだから…

 

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