4月1日日曜日(曇り)
繰り返される闇の中。
時間も身体の場所も何もかもわからない。
感じる事が困難な身体…
~♪
音楽が遠くから聞こえてくる。
私が、意識を無くしたのが3月末だった…
時間の流れがわからない。
数時間だけ過ぎてるのか…
数日が過ぎてるのか…
もしかすると、数年経ってしまってるのか…
今の私にはわからない…
だけど、聞こえてくる曲が今日が4月1日だと教えてくれているのかな…
なでなら、この曲には理由があるんだ。
もし今日が4月1日だとすると…
今日はAprilfool…
4月バカ。
こんな事、誰が考えたんだろ。
嘘をついて良い日なんて…
芸能人がたまに、とんでもないウソ書いて謝罪していることがある。
いかんいユーモアがあるか悩まされるのだろう。
本来は騙されると腹立たしい。
だけどさ、
もし、どっか物陰からみんなが出てきて、
「実は病気は嘘でした」
「やーい、騙された」って
みんなに馬鹿にされたとしてもさ今なら、怒らないと思うんだ。
だからさ…
誰か
ウソだって言ってくれよ…
誰か出てきて
全部ウソだって
イタズラだって言ってくれよ…
頼むからさ…
…
《プシュープシュー》
~♪
さっきから、聞こえてくるこの曲。
曲が流れているのが、夢の中か現実なのかはわからない。
ただ、胸が苦しくなる。
昔の記憶をよみがえらせる。
…4月1日は私達の結婚記念日なんだ。
毎年、2人っきりでデートする事に決めていた。
パパとママという役割から解放され、2人だけの時間を造る。
ゆっくり車を走らせる。
BGMは決まっていた。
初デートのとき、一晩中かかって悩みながら選曲したMDを毎年記念日に流し、そっと手を握るんだ。
あの頃は、何をしてもドキドキした。
2人の会話も今より多かったなぁ…
車の行き先は毎年決まっていた。
最初の目的地はラーメン屋。
ここで先ずは腹ごしらえ。
雑誌に載っているようなお店ではなく、繁盛しているわけでもない。
初めてのデートの時。
行く店を悩んでウロウロしているうちに、時間だけが過ぎてしまった。
どこのお店にも結局入れずにたどり着いた先がラーメン屋だった。
オシャレでもなく、ご馳走でもない。
申し訳なくて、情けなくて落ち込んでいた。
でも、陽子は美味しいと喜んでくれたんだ。
毎年、無口な白髪いっぱい親父と思い出の味のラーメンが私達を出迎えてくれるんだ。
いつも黙ってサービスにつけてくれる餃子。
お礼を言うと、ぶっきらぼうに返事するラーメン屋の親父。
何も変わらずに毎年迎えてくれる場所。
食事の後は商店街を歩く。
そこは活気があり人が溢れていた昔と違った。
シャッターの降りたままの店が目立ち、看板も色あせたものになっていた…
商店街を抜け、山の上にある小さな公園。
遊具もなく手入れもされてない場所。
ただ、星空が綺麗だった。
二人で寝転んで、何時までも空を見上げて過ごした。
何か贅沢な事をするわけじゃない。
だけど、結婚記念日を大切にしていた。
そういえば、一番最初に入籍を4月1日にするって陽子に言った時には苦笑いしてたっけ。
周りも反対した。
4月馬鹿の日なんてイメージが悪い。
結婚も嘘なんてことに、離婚なんてことになってしまうぞ。
って、賛成する人はいなかった。
だけど、私には4月1日には意味があった。
日本では4月1日から新年度がスタートする日。
区切りをつけ、新しい事の始まる日。
だから、私は陽子と1から生活を始める日にした。
そして、もう一つ。
真実を大切にしたいから
ウソをつきたくないから
だからこそ4月1日にしたんだ。
4月1日。
君に嘘をつかない。
入籍した時の約束。
毎年、必ず4月1日は2人っきりで過ごす日にしようよ。
たとえ年老いて、おじいちゃんとおばあちゃんになったとしても…
…どんな事があっても
…大切にする
そう誓った。
全てウソだ。
私は嘘つきだ。
私は今、病院のベッドの上で動けない。
どうやって、約束を守るんだよ。
私は、ただ呑気に眠ってるだけなんだ。