《ゴロゴロ…》
ゴホッ。
また、息が苦しい。
呼吸器がない状態に、なかなか慣れれない。
ゴホッ…
吸引してもらいたいけど、きっとまた嫌な顔されてしまう…
我慢、我慢…
私が我慢すればいいだけの事だから。
…
《ゴロゴロゴロ…》
喉から痰が溢れる。
口の中も痰がいっぱいになる。
病気があるって事は弱点があるという事。
逆らえる立場じゃない。
我慢、我慢。
ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ。
しんどい…
胸が痛い。
我慢できない。
《カチッ》
たまらずナースコールを押した。
…
《コンコン、ガチャ…》
「小林さん、どうなさいました?」
優花ちゃんだったんだ。
よかった…
[タン、だせない]
「痰が詰まって、苦しいんですね。」
《シュー…》
心配そうな表情で、急いで吸引してくれた。
だけど、気遣いながら丁寧に…
「大丈夫ですか?」
一度、手を止めて確認してくれる。
[ゴメン、なさい]
「え?…何で謝るんですか?」
驚いた顔でこちらを見る。
[いそが、しい、のに、めいわく]
その文字を見て、優花ちゃんは首を左右に振った。
「こちらが忙しいとしても小林さんの病気には関係ないから遠慮しないでください。」
優花ちゃんが頭を下げた。吸引チューブを片付ける。
「忙しくて迷惑かけてるなら、こちらが謝る事なんですから…」
モニターをチェックし聴診器で胸の音を確認する。
[ありが、とう]
最近、[有り難う]か[すいません]ばかり使ってる気がする。
優花ちゃんはすいませんって言葉は嫌いみたいだ。
「いいえ。」
有り難うという文字にはニコッと笑う優花ちゃん。
「こちらには遠慮しないでくださいね。辛いのは小林さんの方なんですから…」
…有難う。
昨日からモヤモヤしていたものが少しスッキリした。
優花ちゃんが、ゆっくり私のお腹を触る。
手が止まった。
「お腹張ってますね。」
お腹?
そういえば、下腹がポッコリ飛び出してる。
運動不足で太ったかな?
妊娠するわけないしな…
はぁ…
いよいよ中年太りか…
「そういえばお通じ5日ぐらい出てないですね。」
検温表確認した後、再びお腹を触る。
お通じ?
そういえばしばらくウンチ出てないな。
「ストレスや痛み、発熱。後は、運動不足で便秘になりやすくなるんですよ。」
全部当て嵌まる。
…でも、たかが便秘でしょ?大丈夫だよ。
そのうち出るよ。
「便秘といっても馬鹿にできないんですよ。」
え?
まるで心の中をよまれたみたいでドキッとした。
「お腹が大きくなって、肺を押し上げるんです。それだけで呼吸がしんどくなるんですよ。」
げっ、そうなの?
もしかして、息がしんどい原因は便秘?
「体を起こして座ると肺が広がって息が楽になるのと逆なんです。」
いつも看護師さんが、ベッドを少し起こしてくれてたのはそんな意味があったんだ。
へぇー。
優花ちゃんが説明してくれながら、ゆっくりお腹をマッサージしてくれていた。
円を描くように丸く丸く。
「一番怖いのは、腸閉塞って言って腸が詰まってしまう事なんです。」
うぅ、なんか不安になってきた。
便秘を軽く考えてたよ…
「今晩、下剤を注入しておきますね。きっと楽になりますよ。」
下剤か。
仕方ないよな。
とほほ…