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2月24日土曜日(晴れ)

 

《プシュープシュー》

 

ふぅ…

身体が怠い。

 

たまにはすっきり目が覚めてみたい。

夜、静かになると小さな音でも耳障りになる。
身体がしんどいから神経が過敏になっていた。

 

機械の音。
見回りの足音。
戸の開け閉め。
人の話し声。

 

看護師の笑い声。
無神経さにイライラしてしまう。

そして自分の器の小ささに情けなくなる。

 

《ピピピピ》

…38・7。

 

 

今日も熱が下がらない。

身体が重たい。

痰も粘くてすっきりとれない。

 

 

大丈夫なのか?
もしかして病気、悪くなってるんじゃないのか?

 

 

不安に押しつぶされそうになる。

怖い。
死の恐怖が常にまとわりついてる。

気が休まらない。

 

 

《コンコン、ガチャ》

誰だろ?

 

あら、貴志さん。」

 

貴志か。
ふーん…

 

 

 

 

 

え?貴志?

 

 

「おい、裕!?目が覚めたんだって?」

 

 

 

 

 

 

 

「心配したぞ!お前もう大丈夫なのか?」

 

 

 

焦った様子で早口で話しかけてくる。

小さい頃から見慣れた顔、聞き慣れた声。

 

 

 

 

 

だけど私を上から見下ろしている。

血相変えて
心配したふりが上手いな。

 

 

 

 

本当は
本当は心配なんてしてないくせに…

私はあの言葉を忘れる事ができない。

 

 

 

 

「もう大丈夫なのか?」

お前こそ頭大丈夫か?
白々しい演技なんかして。

 

 

 

 

「どうしたんだよ、何でこっち見てくれないんだ?」
「…ねぇあなた、どうしたの?」

なんでだよ。
陽子までそいつの味方するのか?

 

 

みんな、うるさい!
言葉なんてもう何も信じれない!

口では何とでも言えるんだから。

何を言われても疑ってしまう。
だったらいっそ信じない方が楽だよ。

 

 

 

「おい、裕!」

肩をゆする貴志。

 

 

 

病人に何するんだ…

私は目をギュッと閉じた。

 

 

 

「裕…何かあったのか?」

 

 

何かあったか?
見たら何かあった事くらいわかるだろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病室が沈黙に包まれる。

 

 

 

 

「すまん。また来るな」

 

 

肩を落とし背中を向ける貴志。

 

 

もう来なくていいよ。

 

 

 

 

「貴志さん。わざわざ来てくれたのに…ごめんなさい。」

「いや、僕が無神経だったよ。」

 

 

そうだよ。

 

 

 

「あなた、いい加減にしてよ!どうしたのよ。」

陽子が私の顔を睨む。

何があったかも知らないくせに。

貴志の後を追いかける陽子。言葉が喋れない私は理由さえ伝えれない。

 

 

 

 

 

病室に一人ぼっちになる。

 

 

行き場のない怒り。
どうする事もできず。
何故か、涙が込み上げてきた。

 

 

悔しい。

悔しい。

 

病気のせいか
貴史のせいか
胸が苦しくてたまらなかった。

 

 

 

私は今日、親友を失った。

言葉を失い
自由を失い

いつか全てを失ってしまうのかもしれない。

命さえ…

 

 

私の今の気持ちがわかる人なんて誰もいない。

 

 

眠りたい。
今の現実は私には苦しい。

今晩くらいは看護師さんにお願いして眠れるお薬でももらおう…

 

 

 

一時でいい。
忘れる事ができるなら…

 

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