《プシュープシュー》
ふぅ…
身体が怠い。
たまにはすっきり目が覚めてみたい。
夜、静かになると小さな音でも耳障りになる。
身体がしんどいから神経が過敏になっていた。
機械の音。
見回りの足音。
戸の開け閉め。
人の話し声。
看護師の笑い声。
無神経さにイライラしてしまう。
そして自分の器の小ささに情けなくなる。
《ピピピピ》
…38・7。
今日も熱が下がらない。
身体が重たい。
痰も粘くてすっきりとれない。
…
大丈夫なのか?
もしかして病気、悪くなってるんじゃないのか?
不安に押しつぶされそうになる。
怖い。
死の恐怖が常にまとわりついてる。
気が休まらない。
《コンコン、ガチャ》
誰だろ?
「あら、貴志さん。」
貴志か。
ふーん…
え?貴志?
「おい、裕!?目が覚めたんだって?」
…
「心配したぞ!お前もう大丈夫なのか?」
焦った様子で早口で話しかけてくる。
小さい頃から見慣れた顔、聞き慣れた声。
だけど私を上から見下ろしている。
血相変えて
心配したふりが上手いな。
本当は
本当は心配なんてしてないくせに…
私はあの言葉を忘れる事ができない。
「もう大丈夫なのか?」
お前こそ頭大丈夫か?
白々しい演技なんかして。
「どうしたんだよ、何でこっち見てくれないんだ?」
「…ねぇあなた、どうしたの?」
なんでだよ。
陽子までそいつの味方するのか?
みんな、うるさい!
言葉なんてもう何も信じれない!
口では何とでも言えるんだから。
何を言われても疑ってしまう。
だったらいっそ信じない方が楽だよ。
「おい、裕!」
肩をゆする貴志。
病人に何するんだ…
私は目をギュッと閉じた。
「裕…何かあったのか?」
何かあったか?
見たら何かあった事くらいわかるだろ!
…
病室が沈黙に包まれる。
「すまん。また来るな」
肩を落とし背中を向ける貴志。
もう来なくていいよ。
「貴志さん。わざわざ来てくれたのに…ごめんなさい。」
「いや、僕が無神経だったよ。」
そうだよ。
「あなた、いい加減にしてよ!どうしたのよ。」
陽子が私の顔を睨む。
何があったかも知らないくせに。
貴志の後を追いかける陽子。言葉が喋れない私は理由さえ伝えれない。
病室に一人ぼっちになる。
行き場のない怒り。
どうする事もできず。
何故か、涙が込み上げてきた。
悔しい。
悔しい。
病気のせいか
貴史のせいか
胸が苦しくてたまらなかった。
私は今日、親友を失った。
言葉を失い
自由を失い
いつか全てを失ってしまうのかもしれない。
命さえ…
私の今の気持ちがわかる人なんて誰もいない。
眠りたい。
今の現実は私には苦しい。
今晩くらいは看護師さんにお願いして眠れるお薬でももらおう…
一時でいい。
忘れる事ができるなら…