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2月19日月曜日(雨)

天井が見える…

 

 

身体が怠い。
眠たい。

 

 

ずっと何日間も寝てたのに睡魔がやってくる。

 

 

だけど、眠りたくない。
暗闇はもうイヤだ。

 

 

「あなた…」

 

 

陽子が私の覗き込んでいる。髪がボサボサ、化粧もしてないし。

いつもの陽子からは想像できない姿。

 

 

ん、何だ?

顔の上にポツリポツリ冷たいものが落ちてくる。

 

 

涙…
溢れてくる涙がポロポロ顔に落ちてくる。
目が真っ赤に腫れている。

 

 

くしゃくしゃの顔。
泣いているのか
笑っているのか
怒っているのか
わからない。

今まで暮らしていて初めて見る表情に胸が痛くなる。

 

 

 

 

陽子の私の手を握る手がギュっと力が入る。

身体に上手く力が入らない。握った手を、握り返す事ができない。

最近、仕事が忙しくて陽子の顔をゆっくり見てなかった。
いや、仕事を理由に向き合うのを逃げてたのかもしれない。

やつれた顔。

 

…ごめんな。

 

 

「ぱぱぁおはよ。」

 

 

ひょこっと陽子の横から顔が飛び出てきた。

娘の綾。

無邪気な顔で陽子の真似して同じように覗き込んでいる。

椅子の上に立ち無理して一生懸命手を伸ばしてくる。

毎日、必ず綾と遊ぶ事が私の楽しみだった。
玄関を開けると「おかえりー」って叫びながら抱きついてくる。

ニコニコ無邪気な笑顔で、仕事の疲れを吹き飛ばしてくれた。

 

 

 

いつまで続くがわからない小さな幸せ。

 

 

…変わらない。
私の心の疲れ。
それを無邪気な笑顔で吹き飛ばしてくれる。

おはよう、綾。

 

「裕!?」

 

 

 

少し離れたところから声が聞こえる。
生まれた時から耳にしている聞き慣れた声。

 

 

おやじ…おふくろ…
老けたなぁ…

いつの間にか目尻も頬もシワだらけだ。

 

 

 

何だよ、みんな集まって。
大袈裟だなぁ。

私なんかのために涙流してさ。

 

 

…何でだろう。
数日のはずなのにもう何十年も会ってなかったような懐かしい感じ。

 

 

 

永遠に続くと思ってた暗闇と恐怖…

 

 

当たり前だと思ってた事。
ただ、普通に目が見える事、光を感じる事ができること。

それは、本当はすごい幸せな事だったんだ…

 

 

目が開かなかった理由。

私は呼吸が落ち着くまで麻酔薬で眠っていた。

 

 

そうしないと苦しさに耐えれなかったらしい。
でも、眠っていた間も苦しくて苦しくて辛かった。

気管切開をして徐々に薬を減らしていった。

 

 

 

は目を開けれる。
光を感じれる。
家族の顔がわかる。

声も音も聞こえる。

 

 

だけど
何でだろう。
手や足は重たいまま上手く動かせない。
声も出せない。

目の前にいる人をこの手で触れることができない。
近くにいるのに手を伸ばせない。

 

 

 

何でだよ。
手に届くところにいるのにすごく距離が遠いんだ。
こんなにも近くにいるのに

動いてくれない。
身体も時間もまだ止まったままみたいだ。

 

 

暗闇の中、夢か幻みたいなボーッとした感覚。
光が訪れ今、現実へと変わった。

 

 

夢じゃないんだ。

私は生きていた。

 

 

生きていたという事実。
安心感が胸に満たされる。
でもそれは、一瞬で掻き消された。

 

…本当に夢じゃなかった。

悪夢みたいなこの状態は現実だった。

現実から逃げれなかった…

 

 

安心感から絶望感へと変わっていく。

何もできない。
機械がないと呼吸もできない。

 

 

私はただ、生きてるだけ。

 

 

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