2月9日金曜日(雨後晴れ)
《シュー、シュー…》
…
『…~ΦξБψЙЮ』
え?
『バカ野郎!』
何?
誰だよ?
もう、いいんだよ。
面倒くさいよ。
疲れたよ。
眠らしてくれ。
『裕、頼むから目を開けろよ。』
…
聞き覚えのある声。
意識が呼び戻される。
…親父?
声が震えてる…
泣いているのか?
『俺は親より先に死ぬような馬鹿息子に育てた覚えないぞ…』
絞り出すように出た声は震えていた。
いつも口数少ない威厳のある親父。
普段話しする事はほとんどない。
だけど怒ると怖かった。
あれは高校生の時。
万引きで警察に捕まったときにはグーで思いっきり殴られた。
軽い気持ちだった。
周りがしてたから罪悪感がなかったんだ。
しかし親父の方が殴られた私より辛い顔してた。
殴られた場所より心がすごく痛かった。
その時も声が震えていた。
私立の大学行く時だった。
一言だけ
「お金の心配はいらない。お前は気にせず勉強を頑張れよ。」
ぶっきらぼうにそう言い放った。
後から知った。
お金が苦しかった親父は新聞配達の仕事をするようになった。
昼はサラリーマン。
朝は3時ぐらいに起きて新聞に広告をはさむ。それから配達に向かう。
雨の日も雪の日も台風の日でも関係なく配達はある。
私が在学中、休む事なく新聞配達を続けた。
夜は新聞の集金と契約の仕事。
契約が切れる前に継続のお願いをしに各家をまわる。
マンションなどの空いてる部屋に誰か入居したら一声かけて勧誘。
冷たくあしらわれる事が多く精神的にキツイ。
それでも私には一言もいわず。
ただ家族を守るために…
愚痴言わず働いた。
言ってくれれば進学なんてしなかった。
でも、だから言ってくれなかったんだろう…
私は親父を一人の人間として尊敬するようになった。
ー成人式の日に二人で朝まで酒を飲んだ。ー
珍しくベロンベロンに酔っ払った親父。
口数も多く、私に語った。
「二つだけ約束してくれ。…まず、1つ。親より先には死ぬな…」
実は私には兄貴がいた。
だけど小学生の時、病気で亡くなってしまった。
その時の親父とお袋の顔はずっと忘れれない。
『裕よ…』
親父が声を震わせて泣いている…悲しみが伝わってくる。
冷たいものが私の掌におちてくる。
親父…
約束したもんな。
大丈夫だよ。私は親父より先に絶対に死なないから…
だから…だから泣かないでくれ。
親父…
また同じ苦しみは与えないからな。
親父とのもう一つの約束。
「普段は何もできなくてもいい。だけど男ならいざという時は何が何でも家族を守れ。」
それは親父が言葉でなく背中で教えてくれた事。
家族。
私には家族がいる。
妻の陽子、娘の綾。
それは世界一大切なもの。
二度と会えなくなるなんてごめんだ。
死ねない。
私は生きる!!
絶対に死なない!
親父、約束は守るよ。