2月5日月曜日(曇り後雨)
死んだんじゃなかった。
それだけが唯一の救い。
《コンコン…》
『失礼します。おはようございまぁーす。』
おはようございます。
女性の声。
看護師さんが数人入ってくる。
『よろしくお願いします。』
陽子が部屋から出ていく。
朝の清拭。
身体が動けない人やお風呂に入れない人はおしぼりを使って身体をきれいにしてくれる。
女性に裸にされて囲まれ私は恥ずかしいし情けない…
看護婦さんは仕事だし気にしてないのだろうけど。
《シューシュー》
『ねぇ、お腹空いたね。』
『早く帰りたいなぁ。』
看護師が雑談を始める。
私が意識ないから気にしてない。
…私は今は人ではないから。
私は物として此処にいる。
『ねぇ、何か臭くない?』
『もしかして…』
なに?
何かあった?
『あーぁ、やっぱり。』
『げ、最悪。ウンチしてる。』
ごめんなさい。
『最悪ぅ…新しいオムツ取って。』
『はーい。』
オムツ?
私はオムツをしてるのか?
妻や娘、知らない人たちの前で、
オムツ?
しかも、今ウンチ漏らしてるの?
『よいしょっと』
『うわぁー臭いな、最悪だよ。』
…いて
痛い。痛い。
ちょっと、痛いって!
一瞬、ショックでぶっ飛んでたのに痛みで我に返った。
ベットの端に当たってるのかな?
硬いものが当たって痛い…
頼むから乱暴にしないでくれよ。
人形じゃないんだから。
私だって人間なんだ。
『あああー、手に付いた…最悪。死にたい。手袋してなかったら泣いてるよぉ。』
みっともない。
情けない。
私が死にたい…
だけどね、死ねないんだよ。
いや、死にたくない。
まだ生きたい。
『小林さん、終わりましたよ。』
『ありがとうございます。』
妻の前では丁寧に話す看護師さん。
《シューシュー》
こいつだけはは何も変わらず接してくれる。
私はこれからどうなるのだろうか…
元気になるのかな…
《シューシュー》
私の質問に答えてくれる人はいない。
自問自答を永遠と繰り返すだけで…
ただ暗闇と機械の音が私を包み込んでいた。
怖い。
孤独と恐怖。
不安が私の頭の中を支配する。