2月4日日曜日(晴れ)
《シュー…》
まだ夢から目が覚めない。
このままじゃ仕事に遅刻してしまうじゃないか。
入社してから無遅刻無欠勤をきちんと守ってたのに…
はやく、目を覚ませ!
『ぱぱぁ』
?
綾の声?
『なんで、おねんねしてるの?あそんでよぉ。』
ごめん、ごめん。
今起きるよ。
『ぱぱぁ』
あれ?
綾、おかしいんだ。
目が開かない。
首も動かない。
『ねぇ、お話してよ。綾のことキライになったの?』
違う!違うんだ!
ちくしょー
何で声が出ないんだよ!
『ねぇママ、パパが起きてくれないの…』
『あのね…綾、パパは…』
言葉を詰まらす妻。
なあ陽子?
私がどうかしたのか?
身体が動かないんだ。
なあ、手を引っ張ってくれよ。
目も開かないんだよ。何とかしてくれよ。
『綾、パパは病気になったのよ。ゆっくり休ませてあげてね…』
かすれた声で
涙声で
静かに陽子が綾に言った…
…本当は解ってた
私だって馬鹿じゃない。
…だけど
こんな現実受け入れれないんだ。
認めたくない。
『ぱぱ、どこか痛いの?大丈夫なの?』
今の私は何もできない。
父として。
夫として。
家族に
声をかけることも
抱きしめることも
ぬくもりを感じることも
顔を見ることさえ…
できないんだ。
ただ私はここに存在してるだけ。
いや、本当に存在してるのかさえわからなくなる。
神様。
私が何をしたんですか?
願いがかなうなら
せめて、もう一度二人を抱きしめさせてください…
どうかお願いします。
何でも…
何でもしますから…
《シュー…》
いくら願っても
願っても届かない気持ち。
機械だけが
機械だけが私の声に答えてくれた。
無機質な冷たい音だけが私の命を繋いでる。
こんなにも悲しいのに…
私には涙を流すことさえ許してくれないんだ。