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〈ピピピピピピピピ…〉

 

 

「あなた遅れるわよ。早く起きてよ。」

陽子が容赦なく私の布団をめくる。

うぅ、眠たい…
もう少しだけ…

 

 

 

「ちょっと、いい加減にしてよ!」

バシバシ頭を叩かれる。

瞼を一生懸命開け、時計に目をやる。

 

 

 

え!?もう、こんな時間?

 

 

 

「しまった!仕事に遅れる。」

〈パン〉

 

重たい体を無理やり起こし自分の両頬を叩く。

慌てて飛び起きた私をみて妻の陽子は苦笑いをした。

 

 

 

「何寝惚けてんのよ。今日は綾の結婚式でしょ?」

 

 

そうだった。

 

 

今日はとても大切な日だ。
きちんとしないとな。

 

 

「あちらを待たしたら失礼にあたるもんな。」

慌てて枕元に準備しておいた礼服に着替える。

 

 

 

「あなた、クリーニングのタグついたままよ。」

ネクタイを締めてくれながら陽子が外してくれる。

しかし、久しぶりに夢を見ていた。

 

 

 

もう15年も昔になる。

私は喉に手をそっと当てた。

喉とお腹の穴は塞がっているけど、今も跡は残っている。

 

 

これは私が病気に勝った勲章なんだ。

喉に傷があるため街なんかで振り返られる事もあるけど

生きてるから感じれる事。

 

白髪の増えた髪をセットしながら物思いにふけった。

病院での治療。

病気が良くなり目が覚めて、呼吸器を外せたあとも苦しみは続いた。

 

 

 

歩けるようになるまで
普通の生活に戻れるまで

すごいリハビリの期間がかかった。

 

 

 

…永かった。

 

 

だけど、あっという間だった。

目を開いたとき広がった光の世界。

すぐには信じれず実感できず

だけど今日は、夢だった綾の結婚式を迎える事ができた。

 

 

 

一度は絶望し、諦めていた夢…

この日が来て欲しかったけど…来て欲しくもなかったな。

父親としては複雑な気持ちだった。

 

 

 

結婚式を実感する暇もなく挨拶回りから結納からドタバタしていた。

知らない他人同士が親族になるのは、やはり大変な事で浸る暇なく時間はあっという間に過ぎた。

 

 

 

綾がうちに連れてきたのはカイくん。
幼稚園からの幼なじみだ。

二人の間にどんなドラマがあったのは知らない。

 

 

 

「お父さん、綾さんを僕にください。」

挨拶にきたカイくん。
ガチガチに緊張し、それでも私の目を真っ直ぐにみて頭を下げた。

 

 

本当は今でも不安でいっぱいだ。

綾を本当に幸せにできるのか。

あの男でよかったのか。

 

 

 

「大丈夫よ。綾の選んだ人よ。信じてあげたら?」

陽子なんてケロッとしたもんだ。

 

 

 

式が終わり馬車に乗って手を振る二人。

綺麗に化粧し真っ白なドレスに包まれ笑顔を見せる綾の姿。

 

 

 

…大きくなったなぁ。

 

「おめでとう。」

娘の結婚式にたくさんの人が来てくれて…

祝福の言葉を投げ掛けている。

 

 

沢山の人が祝ってくれた。綾は幸せものだな…

今日はいい天気だ。

 

 

闇のなかにいた時間が嘘みたいだ。

空の下に当たり前に立てる事が何て幸せなんだ。

 

私は思わず掌を太陽にむかって突きだしていた。

差し出しても誰も掴んでくれなかった掌…

 

 

「新郎、新婦の入場です!」

披露宴の始まり。

 

 

 

司会者の言葉にたくさんの拍手に包まれ綾が入場してくる。

音楽が流れ暗くなった会場に蝋燭の灯りが揺れる。

色白の綾が真っ白なドレスに包まれ、ゆっくりゆっくりと足を前に進める。

この間まで子供と思っていたのに。

 

 

 

…綺麗だな。

すごく…すごく綺麗だ。

本当にあの綾なのか?
あのおてんばで、甘えん坊の…

 

 

 

「続きまして…」

私がぼーっとしている間にもどんどん式は進んでいった。

小林綾でなくなる時がどんどん近づいてくる。

胸が切なくなる…

 

 

 

「花嫁より両親へ今までの感謝の気持ちを込め手紙を書いてくれています。」

陽子が立ち上がり、私も慌てて立ち上がった。

 

 

 

綾が私の手を離れていく…

綾が立ち上がり手紙を取り出した。

陽子は横でもう涙を流していた。

 

 

 

 

まったく、みっともないなぁ。

 

 

「…お父さん、お母さん、今まで本当にありがとうございました。」

マイクをもった綾の手の上に涙がポロポロこぼれおちる…

 

 

こら、せっかくの化粧が崩れてしまうぞ。

泣き虫なところは大きくなっても変わらない。

目の前にいるのは小さいころから何も変わらない娘がいた。

 

 

 

「私はお父さんとお母さんの暖かい愛情に包まれ…こんなにも大きくなれました…」

綾が顔を上げる。

 

 

 

いろいろな感情が混じり胸が熱くなり涙をこらえきれず溢れ出した。

年をとり涙もろくなった…

誤魔化そうと顔を上に向けても涙が溢れてくる。

綾との思い出がよみがえってくる…

 

 

 

あれ?
何でだろ?

思い出せない…
小さな綾の姿しか浮かんでこない…

 

 

 

「お父さんは私が小学生の時に亡くなってしまいましたが…」

え?

綾、何言ってるんだ?

私は生きているよ。
元気になったんだよ。

 

 

 

目の前に居るじゃないか。

「母がたった1人で私をプシュー」

 

 

ぷしゅー?

 

 

《プシュープシュー》

 

 

 

 

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