★約束★
星も見えない夜だった。
この日、真っ暗な空を生まれて初めて見た。
だから今もはっきり覚えてる。
「えぇーん…」
俺の横で幼い女の子が泣いていたんだ。
その女の子の名前は真琴。
俺と麻琴は隣近所だった。
親同士が友達ということもあって、いつも一緒に遊んでた。
だけど俺のこと
「やぁーい、チビっ。」
て、すぐに馬鹿にする。
俺は何回も泣かされてたっけ。
とにかく気が強かった。
たとえ幼稚園で男の子に叩かれても、絶対に泣かないんだ。
…だけどさ
この時だけは目を真っ赤に張らして涙が溢れていた。
真琴の涙を見たのも、この日が初めてだった。
「寂しいよぉ…ひっく…お母さんに会いたいよぉ…」
辺りは物音一つない静かな公園。
真琴の泣き声だけが響く。
数日前、真琴の母親が天国に行った。
真琴はお葬式でも涙は流さなかった。
ただ、ボーッとしてた。
僕達は死の意味も、お葬式がなんなのかも解らず
大人からは
「天国はね、とても遠い国でもう二度と会えないんだよ。」
って、言われたっけ。
だから天国は、外国の何処かにある遠い遠い国なんだと思ってた。
ふぅ。
俺は空を見上げた。
相変わらず、月も星もかくれんぼしていた。
吸い込まれそうな真っ暗な空。
「う…りょうちゃん…ひっく…」
泣きすぎてしゃっくりが止まらない。
目は真っ赤に腫れて、それでも涙は止まらない。
こんなにも涙って流れるもんなんだ…
「…。」
真琴の手をぐっと握りしめた。
何か言わないと…
だけど…
言葉が出てこない。
…そのとき、真っ暗な空に光が一つ流れた。
「ねえ、まこちゃん。」
真琴が涙目で俺の顔を見つめる。
顔はクシャクシャだ。
「…星の雨って…知ってる?」
「僕、絵本で読んだことがあるんだ。」
真琴は黙って俺の顔を見つめていた。
握ってた手をそっと離し…
俺は両手を天に向かって突き出した。
そして、いっぱいいっぱいいっぱい両手を広げた。
「空に星の雨が降る日は、どんな願い事でも叶うんだって。」
俺の言葉に真琴が呟いた。
「…本当に?」
弱い、弱い消えてしまいそうな声。
大きく深呼吸する。
俺は目一杯、明るく大きい声で答えてみせた。
「ああ、本当さ!!」
真琴の目を見つめて、俺は笑った。
「僕は天国の場所は知らない。」
風に煽られてブランコが揺れてギィギィ…と音をたてる。
真琴がうつむいた。
「…けどね、まこちゃんが大好きなお母さんに会えるように。」
俺は胸を握り拳で叩いてみせた。
「僕が…星の雨を降らせてみせるよ!!!」
俺の言葉に真琴の表情が和らいだ。
「…絶対?」
「うん、絶対だよ。約束する。」
俺は小指を差し出す。
真琴も小指を出し、そしていつもの笑顔を見せた。
「指切りげんまん嘘ついたら…」
俺はまだ子供だった…
常識を知らない俺は、願えば何でもできると思ってた…
何でも叶うと信じてたんだ…