第1話『正義と悪』③
駅まで結構、距離があるけど…お金ないし歩くか。
一張羅のジャージに着替えて、しゅっぱーぁつ!
メシだ。メシだ。
ふぅ、ふぅ。
運動しないから直ぐに息がきれる。
駅前、駅前。
ふぅ、ふぅ、はぁー。
…見えた♪
駅前のロータリー。
沢山の車。
目印は黒いバス、…黒いバス。
ん?ずいぶん古いバスが停まってる。
灰色…
黒ぢゃないけど…
他にそれっぽいのはないし…
近づくとヒビが入ったガラス
あちこちにぶつけた後もある。
元々は黒かったのかな…色褪せて、所々の塗装が剥げてるよ。
げっ
蜘蛛の巣がいっぱい付いてるし。
そもそも動くのかこのバスは?
さすがに違うよな…
そう思って引き返そうとしたところに声をかけられた。
「お電話くれた方ですね?」
ガーーーン。
これ、だったんですね
せっかく交通費を浮かすため歩いてきた努力を無駄にできないし…
多少怪しくても我慢するしかないか…
覚悟を決めて振り向くと女性が立ってた。
ビシッとキメたスーツ。
眼鏡が色っぽさを強調し、甘い香水の香りがたまらない。
「こちらへどうぞ。」
はい、はい♪
何処へでも行きますよ♪
綺麗な女の人に案内され嫌と言えずバスに乗り込む。
その瞬間、我にかえった。
嫌な汗が背筋を流れる。
バスの中はカーテンで仕切られ薄暗くじめじめしていた。
他にも何人か人がいるようだけど無言。
汗臭いし…
怪し過ぎる。
ここまで露骨に怪しいのも珍しいけど…怪しい。
「すいません。やっぱり、やめ…」
断ろうとした時、バスが動き始めた。
しまった…
後戻りできない。
ヤバイ。
嫌な予感が…
「どうぞ。」
また甘い香り。
頭がふわっとする。
さっき案内してくれた女の人が乗客みんなに何かを手渡していた。
手渡されたもの。ビニールに包まれた黒いものだった。
スーツ?
「みなさん、今から行く先では声はださないようにしてください。これは大事な事です。」
スーツにネクタイ、サングラスをした男性がマイクを使って話しはじめた。
声を出さない?
何で?
「アーとか、キーの一言だけ許可します。」
何じゃそら?
わけわからないぞ??
「渡した服で顔は必ず隠してください。」
顔を隠す?
覆面?!
「しばらくしたらバスに逃げてくれば仕事終わりです。あと質問は受け付けません。」
は…
しまった。
怪しすぎる。
ヤバイ…